思い出

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思い出

 僕たちは「冬の間」の鍵を閉めると、早めの昼食をとった。荒木さんと秋吉さんの殺人事件で朝食を取り損ねていた。喜八郎さんが「まだ見落としている点がありそうじゃ」と言っていたので、昼食の間だけスマホを貸している。 「周平さん、本当に大丈夫? 鍵の束を持つなんて、かなり危険よ?」と由美子さん。 「いいや、大丈夫じゃないな。周平は帰宅部だ。力勝負だとあの爺さんと変わらないと思うぜ」暁がぶっちゃける。 「おいおい、相棒、それ本当か? 確かにリスクを集中させるのは理にかなっているけどよ、俺たちがしっかり護衛してないとアウトじゃないか」草次さんがあきれた口調で言う。 「まあ、何とかなるだろ。俺と相棒がいれば、百人力だぜ」暁は楽観的だ。  自分で提案しておきながら、不安や恐怖がないといえば嘘になる。でも、誰かが身を危険に晒さなければいけないのだ。鍵を持つのに立候補したのには、「春の間」とワインセラーでの証拠写真を撮ったのが僕だけというのもあるが、それ以外にも理由がある。それは二件目の事件でアリバイがあり、犯人候補ではない僕が持つことでみんなも安心するし、犯人の手に渡るのを防げるのだ。一挙両得だ。 「それにしても、人数が減って寂しくなったな」  草次さんの言うとおりだ。夏央、荒木さん、秋吉さんが亡くなった。特に夏央の死の影響は大きかった。僕の学友であったことはもちろん、人一倍陽気だった夏央がいなくなったことで、暗い雰囲気が立ち込めていた。  暁と草次さんがなんとか場を和ませようとしているが、みんなの表情は固いままだ。誰が犯人か分からないこの状況では無理もない。  
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