思い出

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 僕は広間に集まったみんなを見ながら犯人像について考える。犯人は季節の間で事件を起こすときに必ず――荒木さんの事件は季節の間ではないから例外として――「ことわざ辞典」を現場に残している。そして、季節の間に置いた辞書にはそれぞれの間と合致することわざのページを開いて置いている。これは僕たちへのメッセージなのか別の意図があるのか分からない。なんにせよ犯人がことわざに執着、あるいはこだわりがある。  執着――その言葉で別のことを連想した。書庫のことだ。この館の持ち主は誰か分からないが、本はそれぞれジャンル分けされていた。それだけならまだ分かる。しかし、書庫の持ち主は可能な限り関連本を隣に並べるようにしていた。  執着という点で犯人とこの館の持ち主はつながっているように思った。いまだに姿を現さない謎の主催者。もしかしたら犯人は僕たちの中ではなく、どこかに潜んだ主催者が次々と犯行を重ねているのかもしれない。この考えがあっているかは別として、主催者についてはより詳しい情報があった方がいいのかもしれない。 「喜八郎さん、何か新しい発見はありましたか?」  近づきながら喜八郎さんに質問する。さっきからスマホとにらめっこしていたのだから、何かしら収穫があるといいのだけれど。 「それがのう、大きな問題にぶつかってしもうたわい。わしは機械音痴でな、この手のものは使い方が分からなくてのう」  僕は思わず膝から崩れ落ちる。そうか、さっきからスマホとにらめっこしていた理由はそれか。 「分からないなら言ってくれれば良かったのに」と僕。 「いやあ、諫早殿が何やら考え事をしているようじゃったからの。集中を切らしては悪いかと思うてな」  きっと犯人と館の持ち主の共通点について考えていたときのことだろう。年配の方に最近の機械の使い方が分からないという人がいるのは認知していたが、まさか喜八郎さんもそうだとは思わなかった。彼はここまで見事な推理で僕たちを先導してきた。すっかり仙人のような印象があったので、意外だった。 「わしも考えている最中に邪魔されるのは大嫌いじゃからのう。さて、使い方を教えてくれんかのう」 「現場の写真が見たいんですよね? ここをこうして、っと。写真一覧が出ましたよ」  そう言って写真一覧を見たとき、ふとあるものが目に入ってしまった。暁や夏央と一緒に撮った写真の数々だった。
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