思い出

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 春に桜見をしたとき、夏に祭りに行ったとき、秋に紅葉の中を登山したとき、冬に小学生のように雪合戦をしたとき。数々の写真を通して二人との思い出がよみがえる。夏央と一緒に撮った最後の写真はこの館に来た時のものだった。抽選に当たってここに来た当初は大喜びだったが、今ではここに来たことを後悔している。もちろん暁を責めるわけにはいかない。しかし、ここに来なければ、夏央との思い出が増えたかと思うと胸が苦しい。 「諫早殿は犯人が憎かろうな。学友を殺されてしまったのじゃから。ほれ、これを使うがよい」喜八郎さんがハンカチを差し出す。僕はいつの間にか泣いていた。 「……ありがとうございます。喜八郎さんの言うとおりです。僕は犯人が憎い。自分の手で犯人を殺したいくらいに。でも、それでは犯人と同じになってしまいます」 「そのとおりじゃ。貴殿にはまだ理性がある。獣のように犯行を重ねている犯人とは違うのじゃ。そして、貴殿の持つ理性は素晴らしい。ここに来てからものすごい勢いで成長しておる。適応力も高い。呑み込みが早いのが一番の長所じゃな。そして何より相手を思いやることが出来る。将来が楽しみじゃ」    喜八郎さんの言葉で少し気分が明るくなった。そうだ、僕には未来がある。夏央にもあったはずの未来が。僕はここでの一件を乗り越えて、夏央の分まで生きねばならない。それにはまずは犯人を捕まえなければならない。 「さて、問題の現場の写真じゃ。やはり、『ことわざ辞典』に何か別の共通点があるように思えてならん。諫早殿、一緒に考えてくれんかの」 acb5fdd4-3b1a-474c-b574-3405fc1413dd
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