新たな共通点

2/4
前へ
/138ページ
次へ
 僕はこの点がずっと気になっていた。「秋の間」の事件だけ場当たり的なのだ。今までの犯人の行動から逸脱している。 「そこなのじゃ、問題は。それに『ことわざ辞典』が二冊あるのも気になるのう」喜八郎さんが指摘する。  喜八郎さんの言うとおりだ。「秋の間」の現場には二冊あった。これは犯人に何か意図があるに違いない。その時だった。喜八郎さんの目が鋭く光る。 「のう、諫早殿。一つ確認じゃ。わしの記憶どおりなら暁殿の名前は『春太郎』じゃったの」 「ええ、その通りです」 「ふむ、これで確信を持ったわい。新たな共通点を見つけたようじゃ」  喜八郎さんは僕が見落としていた何かに気づいたらしい。 「『春の間』のことわざは『春眠暁を覚えず』じゃったのは諫早殿も覚えておろう。さて、このことわざの意味は『夜の明けたのを知らずに眠りこみ、なかなか目が覚めない』じゃ。ここで諫早殿に質問じゃ。『春の間』で暁殿はどのような被害を受けたのかの?」  僕は喜八郎さんの言葉にむすっとした。それを忘れるほど僕は鳥頭ではない。 「馬鹿にしないでくださいよ。睡眠薬による殺人未遂です」 「そうじゃ、そこが問題なのじゃ。『春』の文字がつく人物をことわざどおりに殺すつもりだったのじ。それも『春の間』でじゃ」  いまいちピンとこない。 「もう少し分かりやすくお願いします。喜八郎さんの頭ほど僕のは出来がよくないので」僕は正直に言う。 「じゃあ、こう言えば良いかの? 『の間で殿は睡眠薬の過剰摂取で』ところじゃった。つまり、犯人はことわざどおりの方法で暁殿を殺そうとしたのじゃ。さて、次は『夏の間』じゃ。ことわざは『飛んで火にいる夏の虫』じゃ。さて、『夏の間』での事件はどんな内容じゃったかの?」  喜八郎さんはすべて分かっているに違いない。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加