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「夏央は鈍器による撲殺か焼死で殺されました……。もしかして喜八郎さんはこう言いたいのですか? 『夏の間での殺人もことわざどおりに行われている』と。」僕は興奮して言った。
そうかもう一つの共通点はこれだったのか!
「それに夏央の名前は『蝶野夏央』です! 『夏』の文字が入っているだけでなく、蝶つまり『虫』の字も入っています。夏央は夏の間で焼殺された。これは『飛んで火にいる夏の虫』を意味していたんですね!」
「そうじゃ、犯人が焼殺にこだわった理由はそこにあるとみて間違いなかろう。確実に殺すために何度も殴打しなかったのは、そこに理由があったのじゃ。かなり回りくどい方法じゃが、犯人はことわざにかなりの執着を持っておるのじゃから納得がいくのう」
なるほど、犯人はことわざに則って事件を起こすことで、僕たちに恐怖心を抱かせようとしていたのだ。そうとなれば「秋の間」での犯行にも説明がつく。
「ここまで言えば賢い諫早殿のことじゃ。『秋の間』についても分かったじゃろう?」喜八郎さんの目がキラリと光る。
「『秋の間』にあったことわざは『秋の日は釣瓶落とし』でした……。つまり犯人は秋吉さん――釣部さんをことわざどおりの方法で殺したんですね。このことわざの意味は『井戸の釣瓶が落ちるように早く暮れてしまうこと』です。釣部さんをわざわざ梁を使って吊るしたのにも意味があったんだ」
そこまで言って僕はあることに気がついた。
「諫早殿も気づいたかの? そう『秋の間』には『ことわざ辞典』が二冊あった。もう一つのことわざは『天高く馬肥ゆる秋』じゃ。ここだけはどうしてもうまく説明できぬ。ここに事件の鍵が隠されているはずじゃが……」喜八郎さんは続ける。
「犯人はただ犯行を重ねているだけではないのじゃ。わざわざ、ことわざどおりに殺しているのじゃ。残忍と言うほかあるまいて」
「でも、この共通点は大きな発見です! 早くみんなに伝えましょう」
僕が離れた場所にいるみんなのところに行こうとした時だった。喜八郎さんがいきなり僕の服のすそを掴んだので、あやうく転ぶところだった。
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