新たな共通点

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「諫早殿、それは待つのじゃ。春、夏、秋と殺人は季節順に行われておる。秋の次は冬じゃ。さて、この場に『』の字が入った人物が一人だけおるの? そう『酒井美』さんじゃ。もし貴殿が冬美さんの立場じゃったらどうなるかの? 『次は自分の番で、しかもことわざどおりに殺される』と知れば、彼女は大いに取り乱すに違いない。まあ、幸いにも犯人の先手をとって『冬の間』は閉鎖済みじゃ。彼女が『冬の間』で殺される心配はない。しかしじゃ、犯人が『ことわざどおりに殺す』ことのみを目的としておるのなら話は別じゃ。彼女はいつどこで殺されるか分からない恐怖におびえることになる。その恐怖は他の者にも伝わり、間違いなく混乱に陥る」  喜八郎さんは冷静だった。僕はそこまで頭がまわっていなかった。新たな共通点の発見に酔いしれ、あやうくみんなを恐怖の底に落とすところだった。これでは犯人の思う壺だ。 「さて、ここでの発見は当面わしたち二人の間の秘密じゃ。くれぐれも他言無用じゃ」喜八郎さんが念を押す。 「もちろんです」と僕。 「おーい、周平。爺さんと長いこと話し込んでいたけど、何か新しい発見はなかったか?」暁が遠くから聞く。 「ううん。さっぱりだよ。どうやら犯人の方が一枚上手みたい」  僕は暁や草次さんたちに近づきながら思った。噓が下手な僕がいつまでこの発見を胸に秘めていられるだろうかと。
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