秘密

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「せっかく俺が『季節の間に合致したことわざが置いてある』って気づいたのに、進展なしか……」と暁。 「まあ、一歩前進だぜ、相棒。それに相棒の方があの爺さんより先に気づいたんだ。あれは大手柄だったぜ。なあ、由美子?」草次さんが暁を褒めそやす。 「ええ、そのとおりよ。私たちは今まで以上に犯人に迫っている。でもね、それって危険でもあるわ。考えてみてよ。もし私が犯人の立場だったら、かなり焦るわ。焦った人がどういう行動をとるか想像できる? 私だったら、この館にいる人を無事には帰さないわ。草次、私だって自分で物騒な発言をしているのは自覚があるわ。でも、ものごとは最悪を想定すべきよ。私としてはこれ以上犯人を刺激せずに、警察に任せるべきだと思うわ」由美子さんの考えは冷静だった。  僕は夏央の仇を取りたい余りに大局観を失っていた。由美子さんの言うとおりだ。 「でもよ、それって相棒や周平に我慢しろっていうことか? 俺が二人の立場なら、何がなんでも犯人を自分で捕まえなきゃ気がすまねえ」  草次さんが拳を握る。強く握るあまり、血管が浮き出る。 「おとなしくするのも一つの選択肢ってこと。私たちは大人よ? 一直線に進むことだけじゃなくて、時には遠回りすることを覚えるべきよ」 「確かに由美子さんの言うとおりだけど、それってなかなか難しいよね。僕には出来そうもないや」天馬さんが由美子さんを尊敬のまなざしで見る。  由美子さんの言葉を聞いて耳が痛い。僕は来年には社会人だ。それは一つの節目だ。由美子さんの言うとおり、時には回り道をすることも覚えなければ。  それにしても喜八郎さんは、例の新発見を僕との秘密と言っていた。彼はどうするつもりなのだろうか。由美子さんのさっきの発言のとおり、警察に情報を伝えて任せるのか、それとも僕たちの手で捕まえるのか。きっと前者だろう。危険を冒してまで犯人を捕まえることは考えていないだろう。だからこそ、二人の秘密にしたのだろう。  みんなの混乱を招きかねないというのは、一つの建前に過ぎないと思う。僕や暁が夏央の仇をとろうと無茶をするのを恐れたに違いない。事実を知れば、暁は確実にどんな手を使ってでも犯人を捕らえようとするだろう。喜八郎さんは犯人だけではなく、僕たち二人が暴走する可能性を考慮しているのだ。
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