最後の晩餐

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最後の晩餐

 夕食はいつもより遅い時間になった。荒木さんが亡くなったため、三日月さんの料理を補助する人がいないからだ。途中でそれに気づいてからは由美子さんが立候補して補佐役になった。 「夕食をお持ちしました」三日月さんが配膳ワゴンを押しながらやって来る。後ろには由美子さんがドリンクを持っている。  夕食の場には磯部さんの姿もあった。秋吉さんの一件以降、自室にこもるのは危険だと気づいたらしい。久しぶりに全員がそろった形だ。 「それにしても、今日の夕食は貧相じゃないか! とてもバカンスに来ているとは思えん。下手したら非常食の方が豪華じゃないか」磯部さんがナイフとフォークを持った手でテーブルを叩く。 「あら、それは聞き捨てならないわ。せっかく二人が作ってくれたのに。由美子ちゃん、磯部さんは夕食抜きでいいわよ」と冬美さん。 「おいおい、それはないだろ。……分かったよ、そうにらむなって。謝ればいいんだろ、謝れば。嬢ちゃん、すまなかったな」磯部さんが謝るとは思っていなかったので、意外だった。  僕は気づいた。冬美さんの言葉を受けて謝ったのではない。それもあるだろうが、磯部さんの向かいに座った草次さんがすごい形相をしていたのだ。これは磯部さんも謝らざるを得ない。
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