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「さあ、今日が終われば明日の夕方には漁船が来る。そうすれば、好きなものを食べ放題だ」磯部さんは白々しく言う。
「これが最後の晩餐にならなければな」磯部さんのセリフに対して暁がポツリと言った。
「暁、いくらなんでもその言い方はないよ。今日はこのあと、各自の部屋に戻るんだよ? 事件が起こるわけないじゃん」と僕。
「まあ、周平の言うとおりになればいいけどな。さっき書庫で言ってただろ。『マスターキーはすべて手元にある』って。それが引っかかったんだ。今もまだ姿を見せない主催者がもしこの館の主だったら? もちろん、マスターキーを持っている。そして俺たちに隠れて犯行を重ねていたら? 俺たちは今夜も恐怖におびえなきゃいけないんだぜ」
暁の言うとおりだった。僕でさえその考えが頭をよぎったのだ、他の人がその可能性を考えないはずがない。広間に静寂が広がった。
「まあ、相棒の言うことも一理ある。今夜は扉の前に重たい家具を置いた方がよさそうだな。他にいい考えがある奴はいるか?」
草次さんの提案に対する答えは沈黙が示していた。
「じゃあ、それで決まりだな。せっかくの晩飯がさめちまう。早く食っちまおうぜ」
草次さんの言葉を合図にみんなが食べだす。もちろん、一日目のような盛り上がりはない。
「さて、三日月さん、由美子嬢、ごちそうさまじゃ。いやぁ、うまかったわい。冬美さんもそう思うじゃろ?」
「ええ、由美子ちゃんは将来いいお嫁さんになりそうね。誰かさんがうらやましいわ」
草次さんは恥ずかしさのあまり顔を赤くしていた。由美子さんも同じだった。
「ふむ、うらやましいわい。このような絶望の中にも希望があるということじゃ。まるで暗闇を照らす灯台の灯じゃ」
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