10 学園での生活は

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10 学園での生活は

 普通は入学からみんな同じスタートなのだが、俺は編入ということで初めこそざわつかれたが、持ち前の対人スキルですんなりとクラスに馴染めた。  俺のクラスはそこまでギラついた奴がいない。放蕩息子とか、良い奴がほとんどだったので、気負わずに楽しく過ごすことができた。ちなみにオメガも何人かいたが、俺とはあまり合わないような物静かな子が多かったから、俺はベータの男たちとつるんだ。  学園はアルファだけの特別クラスがあり、オメガとベータとは違うフロアで隔離されている。といっても学生に行動制限はないから、食堂やら庭やらでアルファを見ることはあった。だからアルファには絶対に会わないなんてことはないが、授業だけは別だった。アルファは能力が高いと言われているから、アルファだけを集めて特殊教育でもしているのだろう。それにオメガとアルファを同じクラスにするのは危険らしい。偶然ヒートが起こった時のために、アルファがラットを引き起こされるという事故を事前に防ぐ処置だった。ベータは興奮してもラットを起こしてオメガのうなじを噛むという行為はしないということで、ベータとオメガは同じクラスにしていた。  バース性って大変なんだな。俺は田舎の学校に行っていたからそんなこと全くなく、みんな仲良く勉強していたけど、王都は複雑だ。  学園も華美な世界で、これまたびっくり。さすがに金持ち爵位持ち子息たちが来るところだな。王都ってさ、いちいち金持ちですって分かる置物多くないか? 俺は何かを壊して金を請求されるかもしれないと思うだけでびくびくするよ。  編入から数週間が過ぎ、特に仲良くなった気の合う奴と中庭で話していた。  仲良くなったのは、伯爵家のレイノルドこと、レイだった。  伯爵家って初めて見たってぽろっと言ったら大きな声で笑われた。なんかそういうことを口にする人種が面白かったらしくて、俺はレイに親友認定されてしまった。レイも寮生活をしていて、部屋が隣ということで話すきっかけがあったのが始まりだった。  でも話すとお貴族様って感じではなくて、言葉使いも俺と同じような感じでとても意気投合した。見た目はまさに貴族って感じの金持ち坊ちゃんなんだけど、良い奴だった。休み時間も外で日光浴しながら、だらだらとする仲になったわけだ。ちなみにレイはベータで、恋愛対象は女の子だと初めに言われた。オメガと仲良くなるとそういう意味でも警戒しなくてはいけないのか、俺の性別不便だな。  突然レイが起き上がって、俺にちょっと見て見ろよって言ってきた。せっかく寝そべって気持ちが良かったのに。 「なんだよ」 「王太子殿下がいるぞ、貴重だからシンも見とけ、でも珍しいなぁ」 「何が珍しいの?」  一度だけ会った王太子がご学友たちと歩いていた。周りはそわそわしながらも横目で見ているという、なんだろう。話しかけられないけど見たい、みたいな感じの女の子が多かった。やっぱり凄くかっこいいな、遠目でも分かるくらい輝いている。俺はあんな浮世離れした人とこれから体を交えるのか……。  ちょっと憂鬱になった。 「そっか、シンは知らないか。学園でも教室か王太子専用の部屋に籠って、あまり(おおやけ)の場で見ることないんだよ」 「へぇ」  王太子と高位貴族たちが一緒に歩いていると、そこはもう別世界の様にキラキラと輝いて見えた。そんな光景を見たら自分の立ち位置が急に卑しい存在に見えた、もちろん卑しい存在なんだけど。 「なあ、そんな話よりさ、次の授業は俺と組もうぜ!」 「えっ、シンと? だってシンはオメガだし、格闘技のクラスなんて適当にサボっても怒られないよ」  俺は殿下の事情に関心が無いので、すぐにそっちへの視線は収めて次の話に切り替えた。 「え、やだよ。俺格闘技も体動かすのも得意だからさ! お前ならそれなりに体格もいいし、いい相手になると思うんだよねー」 「シン、本気で言ってる?」  ふふ、ここの坊ちゃんたちはオメガがはかないと思いがちだが、俺をそのくくりにしてもらっては困る。基本、学園では何をしてもいいと言われているし、お淑やかにするようにとも言われていない。 「レイ、俺を馬鹿にしない方がいいぞ。俺は地元じゃ割と有名なガキ大将だったんだ。強いぞ」 「ほんと、お前ってオメガらしくないな。見た目は黙っていれば良いのに、ほんとしゃべると残念すぎる」  レイは俺をオメガ扱いしたことないけど、呆れてそんなことを言ってきた。 「うるせぇよ、俺にオメガを求めるな」 「求めないし」  レイが俺の頭をワシャワシャしながら大声で笑った。オメガというだけで触ろうとする奴もいないようなお坊ちゃんたちの中、レイだけは気さくに接してくれてありがたかった。 「このやろ! せっかくまとめたのに、俺の髪が絡まるだろう」  オヤジに髪を切ることを禁止されて、良い子の俺はそれに従って伸ばしていた。それくらいしかオヤジの言うことは聞いてこなかったけどな。赤茶色の髪は母親譲りでまっすぐで丈夫だったから、山で駆け回って日に浴びても痛むことはなかった。今でも髪を切らないということを、律儀に守っているわけだ。仕方なく俺は背中まで伸ばした髪をひとくくりで頭の上でまとめていた。だから頭をワシャワシャされるとまた結い直さなければいけなくなる。  レイに仕返しだというばかりに、タックルをして押し倒す。 「うおっ!?」 「ざまあみろ!」 「すごいな、シンはやっぱりオメガじゃないね、マジで腹に効いたー」 「おうよ、まぁ残念ながらそこはオメガだけど、俺マジ強いからな! 次の授業は覚悟しろよ」  そんなふうに二人で戯れていた時、突然背中がゾクってした。なんだろう、急に寒くなったきがした。 「シン?」 「あ、ごめん。なんでもない、もう教室戻ろうぜ」  俺が急に黙ったからレイが心配した。俺はその場にいるのがなんだか嫌になって、レイを促し、教室へと急いだ。
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