13 観劇のお誘い

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13 観劇のお誘い

 俺は殿下に流されまくったが、あの日はあれだけだった。  てっきり最後までされるのかと、ちょっと期待をしてしまっただけに残念だった。ってぇ……ちょ、ちょっと待て俺! 期待ってなんだ!? ああ俺の思考がだんだんおかしな方向になっている。  俺は何を期待した?  初めてのことだったけれど嫌悪感がなかった。なんならあのまま「最後まで」それでも問題ないと思ったし、それが俺の勤めだって理解していたから。なのにあのエロ殿下は、初めてはもっとロマンティックにしたいとかなんとか、なんだそれ。あんたは初めてじゃないだろうと突っ込みたかった。俺をその気にさせて突っ込まずに、乙女みたいなことを言いやがった。若干ひいた、国の王子がそれでいいのか?  とまあ、そんなわけで処女卒業はまだだった。そんなことを教室で考えてると、唯一の友達のレイが話しかけてきた。 「なあ、シンってさ。演劇興味ある? 俺たまたまチケットが手に入ってさ、今度の週末一緒に行かない?」  レイは豪華なチケットを二枚つまんで、俺の前でひらひらと揺らしていた。 「えっ! これ今人気のチケットじゃないか! よく手に入ったな。行きたい!」  演劇に興味があるかないかは、観たことがないから分からない。王都に来たばかりで何も知らない俺は、最初こそ戸惑ったが、学園生活にも慣れてくると色々と周りにも興味が湧いてきた。俺の育った場所とまるで違う。もちろん自然あふれる領地が一番だが、ここはここで面白い。学園を卒業したら領地に帰るのだから、限られた時間は存分に都会を楽しもうと、最近は気持ちを切り替えた。  単純に、ただ王子の閨相手だけのためにここにいるのが嫌だった。せっかくだから楽しむことにするんだ! 学園では知識を吸収して、実家の領地のためになることを少しでも多く学ぼうと思っていた。  最近は少し余裕がでてきたのでクラスメートの話を聞いたりしている。流行りなどの話をするから俺は興味津々で、なかでもこの劇は貴族の間でも大変な人気らしい。そんな劇のチケットを下級貴族の俺なんかが手に入れられるわけもないし、ましてはそんな金はない。だからまさか観劇ができるとは思っていなかったところに、レイが誘ってくれた。  だが、そうだよ、俺には金がないんだ。 「あっ、でもごめん。俺自由になる金がないんだ。だからせっかく手に入っても俺に支払い能力はないから、他の人あたってくれ」 「えっ?」  金がないやつが、こんな王立学園に通っている事自体おかしいよな。せっかくできた友達だったけれど、やっぱり俺みたいな底辺嫌気がさしたかもしれない。一瞬レイが疑問という顔をしたが、すぐに言葉が返ってきた。 「シン、たまたま手に入ったっていっただろう。友達同士で金のやり取りはしない。これはお前にやるんだよ、もちろん俺と同伴じゃなきゃだめだけど」 「え、いいの?」 「ああ、こういうところはカップルで行くのが決まりでね。彼女がその日行けなくてさ、だからシンを誘えって言われたの。ほら、俺ってカッコいいだろう? ひとりでいると、すぐに女の子から声が掛かるんだよ」 「だからなんだよ。自慢か?」  自分の見目がいいことを分かりきっているレイは、そのモテぶりを隠すことなく言いきる。俺が呆れた目で彼を見ると、笑いながら言葉を続ける。 「はは、事実だ。お前となら間違いは起きないだろうし、オメガをパートナーとして連れて歩いている男に声を掛ける女はいない。他の相手への牽制になるので、見事にお前は俺の姫からに俺のナイトを任命されたわ」  なるほど、彼女が同伴できないとなると、他の誰かと行くわけにいかないし、俺となら絶対に……無い。何も起こらない。俺以上に安心なオメガはいないな。 「ナイトかよ! これでも俺、一応オメガだしな。だったら行くよ。俺なら安全しかないわ」  そして約束の日になった。わざわざレイが服を用意してくれたので、それを着た。俺は部屋に迎えに来たレイの姿に驚いた。 「おい、なんだ、その格好は」 「ああ、これね。彼女と買い物に行ったとき買わされた。シンとお揃いで揃えるからって言われてさ、許せ」 「悪趣味だろ……」  見るからにお付き合いしています。みたいな、まるで二人で合わせたかのようなペアのスーツ。というか、むしろこれじゃお笑いだ。服をここまで合わせるカップルなんて、いないだろう。これは、こいつの彼女の嫌がらせに違いない。 「まあ、怒るなよ。ほら、俺正装するといつも以上に男前になるだろう? その辺のオメガが隣にいるくらいじゃ、まだ信用できないから、誰も声をかけられないくらいの雰囲気は、お揃いの服だろうってさ。俺って愛されているんだよね」 「ふざけんな! そんな恥ずかしい格好で出かけられるかよ」  自分で男前とかムカつくけど、たしかにそのとおりだった。そりゃ殿下と比べると種類が違うからなんとも言えないけれど、一般的にはモテる部類だ。  レイはベータだけど、アルファと見間違えるくらいに色男だった。気遣いもよくできて、思いやりもある。そしてアッシュグレイの髪と瞳、少し垂れ目なところがモテポイントらしい。大好きな彼女の言うことを聞きたい気持ちは分かるけど、俺が被害者になる必要あるか? 「えええ! 俺これ楽しみにしてたのにぃ。彼女は家の事情で俺と出かけられないしけど、シンとならいいってお許し出たんだよ? 俺達親友だろ、これくらい付き合ってくれよ」 「……う、わ、分かったよ」 「ほんと、悪いな。その代わりうまいもんご馳走するからさ!」 「いいよ、そんなの。まあ、俺も見たかったし。仕方ない」  俺は悪意無い頼みごとには弱い。まあ服くらいいいか、そもそも俺この王都にそんな知り合い居ないし、見られて恥ずかしいのはこいつだけだろう。そんなふうに気軽に考えていいた自分に、その時は後で後悔することになるとは思いもしなかった。
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