25 もうひとりのオメガ

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25 もうひとりのオメガ

 結局、俺はいまだに閨係を全うしていなかった。  そこで、後宮医師であるムスタフ伯爵夫人に、もうひとりのオメガであるフィオナに会いたいと言ったら、フィオナと会う約束を取ってくれた。  学園が終わったあと、フィオナと待ち合わせをしたそこは高級サロンだった。フィオナはたしか男爵家のオメガで、この閨係をするくらいだから、とてつもない貧乏貴族だと思っていたが、金を持っているのか? レイが連れて行ってくれた場所みたいに、豪華な個室だったので驚いた。 「シン殿、お久しぶりですね」 「フィオナ殿! 今日は無理を言って会っていただき、ありがとうございます」  相変わらず色気のある男オメガだ。笑顔が眩しすぎる!   俺を見た瞬間に立ち上がると、緩やかなカールのある肩まで伸びた髪の毛が揺れた。ふんわりとした髪の毛とオメガらしい控えめな笑顔、そして立った時の背の高さとくびれた腰に小ぶりなお尻という華奢な体が、まさにモテるオメガ男性そのものという雰囲気だった。 「あれ、ムスタフ先生から聞いていたのと違う? もし僕が年上で気を使っているなら、遠慮はいりません。僕は君と同じ男爵家という位の家なんだし、仲良くしましょう。呼び捨てで呼んで頂いて構いませんよ。さぁ座ってください」  俺は席へと誘導されたので、遠慮なく豪華な椅子に腰を下ろした。  あの医者め、俺のことをなんて話していだろうか。じゃあ、もしかして俺が抱かれていない閨係というのも知っているのか? それよりも助かる。なんとか殿とか、なんとか卿とか、敬称って苦手なんだよ。 「えっと、じゃあフィオナ? 俺のこともシンって呼んでください」 「ありがとう。でも僕は年上ぶりたいから、シン君って呼ばせてくださいね。それよりその敬語もいりませんよ」 「えっ、でも。じゃあフィオナも対等に話してくれる?」 「えっ」 「えっ?」  フィオナが驚いた顔をした。どういうことだろうか。 「いや、僕は、その」 「なんか、事情でもあるの? 同じ閨係とは距離を取りたい……とか? ごめん、なさい。俺、いや、僕が勝手に親近感を持っていました」 「いや、そういうわけじゃなくて。ごめん、敬語はやめて……欲しいです」  お互いしどろもどろと話す。 「じゃあ、フィオナも?」 「う、うん、まあ、今だけならいいかな? うん、ごめんねシン君。気さくに何でも話してね」  なんか知らないけど、フィオナはひとり葛藤をして開き直ったみたいに俺に向き合った。敬語で他人と話すように育てられているのが、普通の貴族なのだろう。俺は肩こるんだよね。だから殿下の前では自分を抑えていて、ちょっと疲れる。 「君から僕に会いたいって言ってくれて、とても嬉しかったよ」 「あ、急にごめん。同じ事情だし、それにフィオナは経験あるって言っていたから色々詳しいかと思って。相談に乗って欲しいって思っていたんだ」  俺より確か二つ上だった。それなのにこの色気は何だろう。これがオメガの格の違いなのか。色気はとにかく、優しそうな人だった。どうしたら殿下はその気になるのか、聞いてみたかった。教えてくれるかは分からないけど。 「で、どうしたの? 殿下のことで何か悩みでもある?」 「うん、それだけど。殿下が俺を抱かないんだ」 「え、えっと……?」  フィオナが困っていた。そうだよな、自分は散々殿下に抱かれているのに、もうひとりは仕事をしていないなんて聞いたら、驚く。というか、ムカつく? これは結構深刻な問題ではないだろうか。抱いてもらえる方法を聞く雰囲気では無い気がした。もしや、辞退するべき案件だったか!? 「ご、ごめん。フィオナは仕事をしてるのに、俺だけサボって。これってもう閨係と言えないし、俺は辞退したほうがいいよね? でも返す金がもうないからどうしよう」 「ぶっ! えっ、じ、辞退って言った!?」 「だ、大丈夫?」  美しいオメガが俺の目の前で、高級なお茶を噴き出した。そうだよな、いまだに殿下に手を出されないって、そうとうやばいオメガだよな。分かるよ、マナーを忘れるほどの俺の事情。 「じ、辞退はだめだよ! ウン、ダメ、ゼッタイ」  なぜカタコト? 「でも、フィオナも大変だろう? 本来は二人で殿下の熱を発散するのに、今はフィオナひとりが相手をしてくれている。今まで気がつかなくてごめん。俺が辞退して次の担当がくれば、フィオナの負担も減るだろうし……といっても俺には返す金がないから困っているんだけど」 「僕は負担なんかじゃない!」 「えっ」  フィオナは必死になって訴えてきた。えっと……そんなにいいの? 殿下に抱かれることが。
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