4 いざ王都へ

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4 いざ王都へ

 嘆きの言葉からの、馬車に至る。  オヤジからは余計なことをしゃべるなと言われたが、一言だって話すつもりはない。媚を売るつもりもないが、手打ちになっても困るので、相手を拒絶しない程度に流されるしか生き残る方法はないだろう。  笑顔なんか出るわけない。絶対引きつる。王太子に抱かれるためだけに行くのだ、別に愛想も会話も必要ないだろう。  王都は遠いので、途中の街で宿屋に一泊した。旅費は王家持ちなので、豪華な宿に泊まった。人生で初めての経験で戸惑ったが、それどころじゃなかった。初めて行く王都への不安も大きかったが、上位貴族を見たことすらないのに、いきなり王子様に会うんだから、普段お気楽な俺でもさすがに緊張していた。家では見られないような、せっかくの豪華な食事も喉を通らなかった。  オヤジは目の前で肉を頬張って、ワインをたっぷりと飲んでご満悦だった。それを見て、吐き気がしてきた。息子を売る親は罪悪感なく、むしろいい仕事もって来てやったぞと言わんばかりのご満悦な態度に腹がたった。  そして領地を出て、二日後にやっと王都入りした。そのまま王宮まで馬車は進んでいったが、もちろん俺は日陰の存在なので、正面切って王宮に入れることはない。少し離れた建物に馬車をつけられた。そこは代々国王陛下が愛人などを囲った建物、後宮と言われる場所だった。  豪華な建物に、見たこと無いような銅像? 置物? きっと歴史ある芸術品なのだろうという物が、ところどころに配置されていた。そんなものは腹の足しにならないので我が家には無い。そういった美しい細工を施した何かが置いてある廊下を進むと、そこに後宮官僚というオジサンがいた。  父親は会った事があるのか、すぐにそのオジサンのところに行って、「この度はうちのシンをご所望くださり、ありがとうございます」とかなんとか言って、見るからにゴマをすっていた。ここまでの旅に使わせてもらった馬車と宿屋のお礼を、満面の笑みで言っていた。そうだろうよ、お前は親特権で豪華な年代物の酒をたらふく飲んでいたからな。  俺はすぐに別室に連れて行かれ診察を受けた。医者が言うにはオメガの体は柔軟にできているらしいから、ただ殿下に身を任せるだけでいいと言っていた。というか当たり前だ。処女なのにノリノリとか無理な話だから、そう言ったら笑われた。  保護者として父親はその日のみ、この後宮に立ち入りを許されている。大きな部屋に通されると、そこにはすでに先客がいた。  俺よりも少しだけ年上に見える青年。身長が低い可憐な男性だった。彼は、俺を見るとニコッと笑いかけてきた。余裕じゃねぇか。  その彼が、もうひとりのオメガということはすぐに分かった。彼にもオヤジのような中年の男が側に寄り添っていたので、俺と同じ境遇だとしか思えなかった。それにしてもあんな可愛いオメガと……俺? 絶対に俺じゃ力不足だ。このままやっぱり無理って言って帰される可能性もある。  そして後宮官僚がざっと説明をした。本当にざっとだ。王太子のいる部屋に入って、フェロモンの相性を測ると言われた。相性が悪ければ今回の担当は見送りになると。相性って、早速ヤルのか!?  一日に二人も? アルファ、恐ろしい……。  まずは俺より先にきていたオメガが連れていかれた。えっと……そいつの父親は俺たちとここで待機して、隣の部屋では息子が犯されるって、なんて配慮の無い状況だ。  この状況に耐えられん。  そう感じるも、わずか数分でそのオメガは部屋に戻ってきた。もともと可愛い顔をしたオメガだったが、さらに色気を増していた。明らかに事後なのか、顔が赤くなっている。王太子、早すぎっ!? こんな数分で行為って終わるの? これじゃ閨というか、ただの便所扱いじゃないか。  それにしてもこのオメガは満足そうな顔をしているから、テクニックは凄いのか!? 俺には経験がないから、全く想像がつかなかった。この人は納得してここに来ているのだろうか? 俺みたいに嫌々っていうようにはとても見えなかった。  もしかしたら王太子の相手を一年限定でも望むのが、オメガとして当たり前なのだろうか。貧乏貴族には、一生かかっても会うことすら叶わない相手だ。一度の夢くらい見たい、そんなところ?  どちらにしても、今までオメガを意識して生きてきたことのない俺には分からないことだった。そんなことを考えていたら、俺も連れて行かれた。  いよいよご対面、そして俺の悲しい貫通式が始まる。
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