9 ひとり王都へ

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9 ひとり王都へ

 転校の手続きを後宮にしてもらい、王都にある王立学園への登校が始まった。実家からは遠いので、学園の寮に入ることになった。王都の学園は人気があるし、なるべく学生の間に貴族の繋がりを多く持ちたいという家が多いので、王都から離れているところに住まう貴族子息たちも通っている。  そういう子供のために、学園には寮も併設されていた。まぁ普通は近くにいる親族のところに行くとかだろうけど、寮暮らしの学生は多くはないが、いる。  そして、なんとここまでの費用は全部、王太子持ちだ。  俺としては、可愛い弟と離れるのは辛かったが、あのクソ親父と顔を合わせなくてすむなら、それはそれで嬉しかった。あれから一度家に帰って、弟や母親、仲の良い領民とお別れをして、ひとり王都に来た。  俺が王立学園に通うことになったと言ったら、みんな驚いていた。友人たちからは、腐っても貴族だなって笑われたけど、俺は必ず領土のためになることを勉強してくると言ったら、なるほどってみんな納得していた。みんなは俺が親の後を継ぐための勉強をしに行ったくらいに思ってくれていた。オヤジよりもよっぽど頼りがいがあると思われているみたいでなんだか嬉しかった。  王立学園、ここは高貴な人も通うが、俺みたいな底辺爵位の貴族だっている。ただし、金がある家に限るが……。  一応貴族なら誰でも通えるがなにせ学費が高いから、うちみたいな貧乏貴族はいない。そんな事情は多分知られていないから、気軽な男爵子息として気負わなくてもいいだろう。そして私生活では、他の誰かと体を交えず、犯罪行為に染まらず、まっとうに生きていれば何をしてもいいと後宮からは言われた。  要は閨さえ勤めれば、何も言われないみたいだな。  殿下もここの学生だった。俺と同じ年の十八歳だ。殿下から呼び出されたらすぐに対応できるように王都で暮らし、もし学園内で殿下がどこぞのオメガのヒートに巻き込まれそうになった時も、すかさず自分が殿下の熱を抑えられるようにと学園に入学させてもらったわけだ。そんな裏事情だった。  閨さえ全うできればいい俺の人権って……。  王立学園を卒業すると今後が有利になるらしい。ビジネスの上で、あの学園を出たのなら安心ね? みたいな信用が得られる。王立学園を卒業したオメガを嫁に欲しがる家も多いらしい。とにかく上等教育を受けられる最高の場所なんだってさ。  せっかく高度な授業を受けられる機会を与えてもらえたのだから、できることならここで知識をつけて今後に役立てたい。ラードヒル男爵家の長男は、ここの卒業生ということで、どこかの貴族に融資してもらえたりする可能性もあるかな? とかオメガ人生の今後よりも、家のためになることばかり考えてしまうわけだ。  王太子の性欲処理のためにこの学園に入れてもらったのだから、殿下とこっそりと会うこともあるだろう。普段は、俺たちの関係は(おおやけ)にはできない。学園で王太子に会っても知らないふりをしろと後宮から言われた。ちなみにもうひとりの閨担当であるフィオナは、すでに成人をしているのでここにはいない。俺のオヤジが、秘密を酔っ払ってどこかで話してしまわないかだけが、唯一の心配事項だ。  寮はベッドと机がある小さい部屋だが、一人きりになれる快適な場所だった。風呂トイレ完備だし、食事は寮の食堂で三食付き。  娼夫(しょうふ)をするのは辛いが、代わりにこんな快適な暮らしができるならそれもいいかと思った。どうせオメガだ。結婚できなかったにしてもいつかは誰と体は交える日がくるだろうから、一番安心な絶対の身分が証明されている相手が初めてなのは、救いかもしれない。それにフィオナもいる。きっとあの可愛いオメガの方が王太子もいいに決まっているから、もしかしたら俺の出番なんてこないかも。  まだ始まってもないことを考えるのは無駄だと思って、今は学園生活を楽しむことにした。
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