想いのカタチは違くても

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 私が住むことになったのは、小さな山村だった。 脱サラして小説家を目指した私。 もう、これで売れなければやめようと思っていた作品が直木賞を受賞し、書籍化した作品は次々と売れていった。 長年の夢が叶った。 当初はそう思っていた。 夢の職業の始まりを喜び、私はひたすら原稿と向き合った。 しかし、次第に自分が『面白い』と思える作品が書けなくなり、自分の書いた文章に愛着を感じなくなった。 それと同時に、周囲からの声が雑音のように毎日私の耳に入ってきた。 『1作だけの作家』 『駄作家の奇跡』 『もう、ちゃんと働いた方が良い』 心無い言葉が、容赦なく私に浴びせられる。 『有名税』と言われればそれまでだが、人間とは愚かな生き物で、誹謗中傷に悪気を感じない者が多い。と言うかほとんどだ。 私はそんな雑音から逃げるように、今の村にやってきた。 都心から離れた、山奥の村。 私が小説家だということを最初から知っている人はいなかった。 私は、そんな環境でもう一度、原稿と向き合うことにした。
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