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「そうかい……。小さいときは大好きで、これしか食べなかったんだけどねぇ……。」
おばあさんの家に戻り、事情を説明した私。
少しだけ寂しそうな表情を見せたものの、受け取らないことを半ば予想していた、そんな口ぶりだった。
「失礼ですが……娘さんとの間に何か?」
「いやぁ……結婚について少しだけもめてね。お互いの住所は知ってるけど、行き来はしてないんだよ。」
聞けば、娘さんは現在シングルマザーだそうだ。
結婚も俗にいう『授かり婚』だったそうだが、父親の男性が浪費癖・ギャンブル依存だったため、結婚には最後まで反対したそうだ。
しかし、若かった娘さんは両親の反対を押し切り、その男性と結婚。
それ以来、娘さんとは疎遠になってしまったそうだ。
「ごめんねぇ。良かったらそれ、持って帰って食べて頂戴。私の料理の中でも自信作なのよ。」
娘に送ろうとした『母の味』。
帰されて自分で食べるのも辛いからと、おばあさんは私にそっと紙袋を渡してくれた。
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