ファーの旅立ち

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 宝石はお父様がコレクションルームにしまったらしい。あたしの家は防犯にはそれほどうるさくないけど、コレクションルームだけは別。普通の鍵とは別に魔法の鍵もかかっていて、お父様しか開けかたを知らない。  倉庫の鍵はお父様が雇った男の一人が持ってるみたい。クレストに約束したけど取り返すのは難しそう。  夕食の時間になったので食堂に向かう。お父様はとても上機嫌だった。 「そういえば明日バルドが来るらしいぞ」 「えっ⁉︎」  会いたくないんだけど。 「どうして? 街の門は閉まってるじゃない」 「あいつは金持ちだから、魔方陣技師を雇ってるんだろう。うらやましいな。何か売ってうちも雇うか」  あたしは使った事はないけど、世の中には転移魔方陣というものがあるらしく、それを使えば馬車や船を使う事もなく移動できるらしい。  そしてその魔方陣を作ったり設置したりできるのが魔方陣技師。魔法使いよりはるかに難しい試験をパスしなければなれないし、魔法屋と同じく国家資格が必要だけど、資格さえ持てば一生お金に困ることはないという。その人を雇えるんだから、バルド様ってやっぱりかなりのお金持ちね。 「何しに来るのよ。まさか宝石の事を話したりしないでしょうね」 「お前に会いたいらしいぞ。さすがは私の娘だ」  うっ、だからこっちは会いたくないんだってば。  憂鬱な気分のまま夕食は終わり、あたしはクレストに食事を持っていった。メイドのリリーがあたしの後をついてくる。 「リリー、ついてこなくていいわよ」 「お嬢様と傭兵が仲良くならないよう、旦那様に頼まれて見張っていますの」 「あ、そう……」  リリーの存在はとりあえず無視しよう。 「クレスト、ご飯だけど」  倉庫を覗いてびっくりした。クレストがいない。 「リリー! クレストがいないわ! どこに連れて行ったのよ!」 「私は何も聞いてませんけど。逃げたのではありませんか?」 「宝石も取り戻してないのに?」  あたしとリリーが言い合っていると、廊下の向こうからのんびりクレストが歩いてきた。 「クレスト⁉︎」 「よお、お嬢様。急に用を足したくなってさ。お前の家広いよな。ここに戻って来られないかと思ったよ」 「だって鍵は?」  倉庫の鍵は壊れていた。 「悪い、ちょっと押したら壊れたんだ。あ、食事持ってきてくれたのか? ちょうど腹が減ってたんだ」
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