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クレストは律儀に倉庫に入ると夕食を食べはじめた。
「お嬢様、旦那様に鍵が壊れたこと報告しますから」
「クレストを閉じ込めておくのは無理だと思うわ。宝石が欲しいのなら、もっともてなせばいいのよ」
あたしは倉庫に入ろうとしてリリーに止められた。あたしがリリーとケンカしてる間、クレストは美味しそうに食事を味わっていた。
「ねぇ、クレスト、宝石はコレクションルームにしまってあるの。魔法で鍵がかかってるけど、明日になれば取り出せると思うわ」
多分お父様の事だから、バルド様に自慢するために取り出すはず。その時あたしが取り返そう。
「分かったよ。お前のうちの料理、ほんとうまいな」
「お嬢様、今の話も旦那様に報告しますからっ」
「リリー! 喋ったらクビよ!」
「私がつかえてるのは旦那様ですから」
「二人ともケンカすんなよ。じゃ俺寝るから。おやすみ」
明日まではする事もないので、あたしも自分の部屋で寝る事にした。今日は一日いろんな事があって疲れたわ。家を出た時は、もう一度このベッドに寝るなんて思わなかった。
机の上にはあたしが父親に宛てた手紙がある。誰も読んでなさそう。あたしは手紙を破って捨てるとベッドに横になった。
なかなか寝つけなかった。
クレスト、今ごろ何してるのかな? もう寝てる? 倉庫の床、固くないかな。夜食だけじゃなくベッドも差し入れすれば良かった。
あたし、もしかして本当にクレストの事が好きなの? クレストってちょっと変わってるし、魔物専門の傭兵なんて周りにいないからそれで気になってるだけなのよ、きっと。でも外見はすごくタイプ。こんなに一人の人のことを考え続けるの初めて。あたしの事お嬢様じゃなくて、ファリーナって呼んでくれないかな。そして手を繋いだり、力強く抱きしめられたり……。
きゃあ、ドキドキして眠れない。
夜明け頃、あたしは聞きなれない音で目を覚ました。何? 窓の外から低いうなり声のような音がする。ちょっと怖い。
あたしはベッドを抜けて廊下へ出てみた。一階の方が騒がしい。
「何かあったの? この音はなに?」
「ファーお嬢様、外に何かいるみたいです」
「何かって?」
「わかりません。警備兵の話では上空を何かが飛んでいるらしく」
「鳥? 飛行船?」
「魔物が飛んでいるという噂です」
「ええっ⁉︎」
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