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鳥はともかく飛行船はこんな田舎にはまず飛んでこない。でも魔物はもっとあり得なかった。
「だって、街には聖石があるじゃない」
街を襲う魔物なんて昔話でしか聞いたことない。
「そうですよね。聖石がありますから、街を襲うことはありませんよ。お嬢様も安心してお休みになってください」
「……そうよね。おやすみ」
あたしは部屋に戻って再び横になったけど、不安な気持ちはなかなか消えなかった。気味の悪い声はまだ続いてるし、街を襲うことはないってわかってても怖かった。窓の外は真っ暗で何も見えない。結局そのまま眠れず朝になった。
***
朝になると嘘みたいに唸り声は聞こえなくなり、天気も良くなってあたしはやっと安心できた。まあ今日はバルド様が来るけど……。それは嫌なんだけど。
「おはようございます。ファーお嬢様! 今日はバルド様が来られますね」
だから嫌なんだってば。
「おはよう、リリー。朝から元気ね。昨日の夜の変な騒ぎ知ってる?」
「なんだか魔物が出たんですって? でも街に入ってくることはありませんわよ」
「そうよね」
「それより今日は一番素敵な服でバルド様をお迎えしなくてはいけませんわね」
あたしはリリーがいつもと違う髪型をしていることに気づいていた。化粧も濃い。一番素敵かどうかはともかく、あたしは服を着替えると一階に下りていった。
お父様は昨日の騒ぎにはまったく気づいてなかった。上機嫌でバルド様をもてなす準備をすすめてる。庭園で食事会をするらしい。
「うちの広くて美しい庭を自慢したいのだ」
「お父様、昨日の夜、魔物が空を飛んでいたらしいわよ」
「大丈夫だ。街には聖石というものがある。それに魔物がきても父さんが追い払ってやろう。はっはっは」
すごく心配。
あたしは忙しそうなリリーをまいて、倉庫にむかったけど、クレストはいなかった。
「もーっ! どこにいったのよ!」
父親が雇った男を捕まえて聞くと、どうも厨房にいるらしい。
「どうして見張っていないの?」
「お嬢様、あのような弱い男、見張る価値もありません」
絶対まちがってるわ。クレストは強いのよ。多分だけど。
でも厨房で忙しい料理人たちの邪魔をしているクレストを発見すると、あたしの自信はちょっと崩れた。
「何してるの?」
「あ、お嬢様。料理を作るのを手伝っているところなんだ」
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