ファーの旅立ち

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「邪魔してるようにしか見えないけど」 「いい匂いだよな〜幸せだ」 「クレスト、いままでどんなもの食べてたの?」 「そうだな。一番よく食べていたのはジャイタ定食大盛りかな。魔物討伐のときは保存食とか魔物の丸焼きとか、魔物の煮物」  うっ、魔物とかぜったい食べたくない。 「じゃ今まで食べた中で一番おいしかったものは?」 「小さい頃母さんが作ってくれたケーキだな。昨日食べた夕食もうまかった」 「お母さんはどうしてるの?」 「どこかの街で再婚して以来会ってないよ。もう十年くらいになるかな」  明るく言ってるけど、なんだかクレストが不憫になってきた。お父さんが亡くなってからずっと一人で魔物討伐してるの? あたしとそんなに歳が違わないのに。 「そう言えば、昨日の夜気味の悪い唸り声が聞こえて来たの知ってる?」 「ああ、妖鳥クシャスだろ」 「クシャ?」 「クシャスっていう名前の妖鳥なんだ。俺の後をついてきてる」  あれってクレストのせいなの⁉︎ そう言えば追われてるって言ってたわ。 「どうして追われてるの?」 「さあ、何でだったかな?」  それくらい覚えててよ。 「ところで魔石はどこにあるんだ?」 「多分コレクションルームよ」 「そうか」  クレストの宝石もとりかえさなきゃ。  リリーがあたしを探しにやって来た。 「お嬢様、バルド様がいらっしゃいましたわ!」  来なくていいのに。でもとりあえず礼儀としてバルド様を出迎えることにする。本人に直接会って断るしかないわ。  玄関ホールでお父様とバルド様が挨拶していた。バルド様は確かに歳のわりには若くて顔立ちも整ってる。身に付けているものも品が良くてかなり高級な感じ。  二人は転移魔方陣の乗り心地について話し合っていた。 「お久しぶりです。バルドおじさま」 「おおっ! しばらく見ないうちに我がいとしの花嫁は一段と美しくなったな」  頑張るのよ。ファー、負けちゃダメ!  あたしは自分を励ますと引きつった笑顔で続けた。 「あの、その事でお話が……やっぱり結婚はまだ早いというか、あまりしたくないというか、あまりというより全然したくないと思いまして……」 「ファー、何を言いだすのだ。すまないな、バルド。娘はマリッジブルーというやつで」 「おお、そうか」 「違います。バルドおじさま! 奥様は三人で十分ではないかしら?」
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