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「私も最初はそう思ったのだ。だが、人生何にしてもこれで満足という事はないのだよ」
何もっともらしく頷いてるのよ。
「それに子供もオーケストラができるくらい欲しいのだ。まだ二人しかいないのでな」
「子供は宝だよ」
とお父様も相づちをうつ。娘より宝石に目がくらんでたくせに。
「オーケストラは知り合い同士でやってくださいませ」
「実際にオーケストラがやりたいわけではないのだ」
バルドおじさま強敵ね。あたしがこれだけ文句を言っても、にこやかな笑顔で怒る様子もない。さすがはロマンスグレーだわ。
唐突だけど、ちょっと情に訴えてみよう。
「実は私、好きな人がいるんです。だからおじさまとは結婚はできません。ごめんなさい……」
あたしは目に涙をためて言ってみた。おじさまは驚いたように、あたしの顔をじっと見つめる。
「バルド、娘は少し混乱しているのだ」
「いや……驚いた。今の表情はレティーナそっくりだな。美しすぎて言葉を忘れたぞ」
レティーナっていうのは、あたしのお母様の事。お父様と大喧嘩して今は首都に住んでる。
「レティーナは美人だったなぁ。君と結婚した時はかなり落ち込んだよ」
「だが気が強すぎて大変だったのだ」
両親とバルド様は若い頃からの知り合いで、三人はとても仲が良かったみたい。でも今はそんな事どうでもいいんだけど。
「聞いてます⁉︎ とにかく私結婚する気はありませんから!」
「ファーのこの気の強いところが好きなのだ。レティーナに似て美しいところも。うーむ、ますます花嫁にしたい」
うっ……。
あたしの必死の抵抗もむなしく、この話はうやむやになった。やっぱり家を出るのがベストかも。全然会話が成立しないんだもの。
お昼近くなって、あたし達は庭に出た。きちんと手入れされた庭には、うさぎや熊の形の植木がある。小さい頃あたしの希望でこうしてもらったのだ。
庭園には白いテーブルが設置されてて、たくさんの食器が置かれてる。料理人達も、あたし達がすぐに食事できるよう準備してる。
庭にはバルド様が一緒に連れてきた従者たちも数人いた。
空はすごくいいお天気だけど、あたしの心は晴れなかった。あたしやっぱり結婚しなくちゃ駄目なのかな。
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