6人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
当たり前みたいに、美味しい料理や召使いに囲まれて何不自由なく育てられたから、そのつけがまわってきたんだわ。クレストなんて、魔物の丸焼きとか食べて育って、両親からの援助もなくて、おまけに変な魔物に追われてるのに。
そこまで考えて、あたしは料理人のそばにクレストが立っているのを見つけた。料理を見て喜んでる。あたしはバルド様とクレストを見比べた。うん。間違いない。あたし、クレストがいいわ。絶対。
「うちの自慢の料理だ。ぜひ味わってくれ」
お父様がそう言って、食事会が始まった。椅子もあるけど、立食パーティーみたい。バルド様や従者の人たちも楽しんで食事している。
あまり楽しくないけど、顔に出すのも悪いから、あたしは愛想笑いで料理を口に運んだ。唯一、当たり前のようにクレストが料理を食べているのがおかしかった。
バルド様は魔方陣技師をお父様に紹介してる。
技師は独特の帽子(上から見ると円形で魔方陣みたいに見える)をかぶり、メガネをかけた頭の良さそうな男の人だった。魔法使いみたいな分厚い本を持っている。魔法使いにはまだ会ったことないけど。
お父様はうらやましそうな顔をしていたけど、途中で近くにいるリリーに何かを頼んだ。リリーが屋敷に入って、しばらくして何かを持って戻ってきた。高級そうな布に包まれている。
きっとクレストの宝石だわ!
「バルド、実はめずらしいものを手に入れたのだ」
お父様がそう言って、包まれている布の中から赤紫に光る宝石を取り出した。光に照らされてキラキラと赤い光が反射する。
「ほう、これはすばらしいな」
バルド様はため息をつく。
「いったいどこで手に入れたのだ?」
あたしは二人に歩み寄った。
「お父様、それはクレストのものでしょ!」
「かたいことを言うな」
あたし達がケンカしていると、魔方陣技師がおずおずと口を開いた。
「バルド様、それはまさか魔石では?」
「そうなのか? イーグル」
「そう言えばあの男、そんな事を言っていたな」
魔方陣技師は顔色を変えた。
「それが魔石なら、非常に危険です! 魔石は魔物を呼びよせます」
「ははは、大丈夫だ。街には聖石がある」
「この規模の街なら、聖石の大きさは親指ほどでしょう。ですがこの魔石はその五倍はあります。聖石の効果も打ち消されてしまうでしょう」
あたし達は顔を見合わせた。
最初のコメントを投稿しよう!