ファーの旅立ち

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「はっはっは、君は心配性だな」  お父様が笑っていると、突然不気味なうなり声が響いた。昨日の夜聞こえてきた声と同じ。 「なっ、なんだ今の声は?」  みんな驚いて周囲を見回す。天気が良かったのに、いきなり冷たい風が吹いて、庭木をざわめかせた。  再び魔物のうなるような咆哮が響き渡った。さっきより大きな声。ここに近づいてる。楽しく食事していた人たちから悲鳴や不安の声が上がる。 「魔物の声なのか? この魔石が呼びよせているというのか?」 「どうにかならないのかね?」  バルド様が魔方陣技師に尋ねる。 「魔石を封印すれば大丈夫だと思いますが」 「では、すぐに封印してくれ」 「ちょっとお待ちください。私は封印呪文はあまり得意ではなく……ええと」  技師は持っている分厚い本のページをめくりはじめた。うなり声はどんどん近くなる。風も強くなってきて、みんな屋敷の中に避難しはじめた。 「旦那様、バルド様、お嬢様! 早く屋敷に避難なさって下さい!」  リリーが叫んでる。 「ファー! 先に屋敷に入っていなさい」 「封印はまだかね⁉︎」  技師は必死にページをめくっている。あたしはクレストを探していた。どこに行ったんだろう、姿が見えない。 「クレストならなんとかしてくれるはずよ! ずっと持ってたんだから」 あたしは魔石を取り上げた。 「ファー⁉︎」 そのまま石を持ってクレストを探す。 「クレスト! どこにいるの⁉︎」  あたしは避難するみんなとは逆に、料理人達がいた方へ向かった。 「きゃーっ!」  誰かが悲鳴を上げた。あたしは自分の周りが急に暗くなったことに気付いた。何か上にいて、それが太陽の光を遮ってる。  何、この影……鳥の形みたい。ものすごく大きいけど……。あたしは恐る恐る上を向いた。  上空に鳥の姿に似た魔物がいた。赤と緑の翼に黒い体。首から上は、鳥というよりトカゲみたいでくちばしもない。大きさは……二十メートルくらい? 逃げようと思うのに怖すぎて足が動かない。  まわりで叫ぶ声や妖鳥の咆哮が響いてたけど、ほとんど耳に入って来なかった。聞こえたのは一人の声だけ。 「ファー!」  声の方を向くと同時に、抱きしめられてそのまま庭木の間に押し倒される。  妖鳥はあたしが立っていた場所の地面をえぐると、再び飛び立って旋回しはじめた。 「石をかしてくれ。あいつはこれを狙ってる」
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