ファーの旅立ち

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 クレストが至近距離であたしに囁いた。 「クレストは大丈夫なの?」 「ああ。相手はただの妖鳥だからな。お嬢様はここに隠れていてくれ」  クレストはそう言って笑った。もう一度ファーって呼んでくれたらいいのに。  クレストは魔石を持って植木の少ない広い場所に移動した。近くで腰を抜かしている男から剣を借りる。借りるというより勝手に取った感じだけど。その頃には、庭に立っているのはクレスト一人だった。みんな屋敷に避難したか、あたしみたいに体を低くして庭木のそばに隠れてる。お父様とバルド様は大丈夫なの?  クレストは妖鳥を挑発しているように見えた。普段の無邪気なクレストの面影はない。魔物相手の傭兵って、あんな感じなんだ……。  妖鳥はゆっくり降りてくると、巨大な翼をはばたかせた。赤い光が生まれる。炎⁉︎  後ろの方で誰かがうめいた。振り向くと魔方陣技師の男の人。 「あの妖鳥、魔法を使いますね」 「魔物にそんな事できるの?」 「強くて頭のいい魔物なら、人の言葉を話したり魔法を使ったりします」 「じゃ、あの魔物強いの⁉︎ クレスト大丈夫なの⁉︎」 「わかりません」 「そんな」  妖鳥はたくさんの炎の球を作りあげると、クレストに向かって飛ばした。 「クレスト!」  庭や植木の一部を炎が焼く。炎が消えると、焦げた地面に魔石が置かれていた。クレストの姿はない。どこに行ったの?  妖鳥は地面に降りたつと、魔石を鋭い牙で噛み砕きはじめた。この位置だとクレストかどこにいるのかよく見えない。植木の陰から出て行こうとしたら、誰かにひっぱられた。お父様とバルド様。 「ファー! 危険だから隠れていなさい」 「だってクレストが見えないの!」 「彼は立派に戦ったよ」 「過去形にしないで!」  その時、魔石を食べていた妖鳥が悲鳴のような声を上げた。苦しそうにあばれてる。クレストがいた! 妖鳥の翼の下に。剣で魔物の腹部を攻撃してるみたい。 「一体いつのまに移動したのだ……イリュージョンか」  バルド様が感心したように呟いた。クレストってやっぱりすごい!  妖鳥は翼をはばたかせて、空へと逃げようとした。クレストが翼の下から妖鳥の背中へ移動する。あたしは、はらはらしながらそれを見守った。おそらくその場にいたみんなも。
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