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妖鳥は五メートルほど飛び上がって地面へと墜落した。背中から刺さった剣が致命傷になったみたい。クレストが地面にぶつかる前に妖鳥からとび降りると、周囲の人々から拍手が巻き起こった。
「クレスト! すごいわ!」
あたしはクレストに駆け寄った。クレストの服は少し焦げていたけど、怪我はしてないみたい。
「ごめんな」
「なんで謝るの?」
「うさぎが焦げた」
クレストが指した方にはウサギの形の植木があった。妖鳥の炎で黒焦げになってる。
「いいのよ。みんな無事だったんだから。ありがとう」
あたしは何だか涙が出そうになって困った。
「いや、まことに素晴らしい活躍だったよ! 君はどこの所属の兵士だ?」
バルド様が拍手をしながらクレストに近づいて来た。でも妖鳥の死骸は見ないようにしてる。
「俺はジャイタの鉱山で働いていた傭兵だ」
「どの騎士団にも属してないのかね? それならうちで働かないか?」
クレストはちょっと考えて首を振った。
「せっかくだけど遠慮するよ。今は旅がしたいんだ」
「そうか。それは残念だ。君ならいつでも歓迎だ。気が変わったら言ってくれ」
あたしは妖鳥の死骸をながめた。実際の大きさは十メートルちょっとかも。さっきはかなり大きく見えたけど、怖かったからかな。でも牙は鋭くとがっていて、あたしは今さらだけど身震いした。口もとに砕けた宝石の残骸がある。お父様がそれを見て落胆してる。
「ああ……せっかくの宝石が、この鳥のせいで台無しだ」
「ねえ、お父様、あたしクレストの旅について行っていい?」
「馬鹿を言うな。お前は結婚間近だぞ。あんな男といたらいつまた魔物に襲われるかわからん」
「クレストの強さ見たでしょ? きっと安全よ」
「そうだとしてもあの男が危険だ。襲われたらどうする!」
「クレストならいいわ」
あたしが言うとお父様はクレストに詰めよった。
「お前、傭兵ふぜいで娘に近づくな! お前がたぶらかしたせいで娘の将来は台無しだ!」
「イーグル、何を怒っているのだ」
「おじさま、私この傭兵が好きなの。おじさまとは結婚できないわ。これから彼と旅に出ます」
あたしはそう言って、クレストを抱きしめた。クレストは何も言わなかったけど、ちょっと焦げた匂いがした。
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