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あたしは背後をそっと振り返る。誰かがずっとついてきてる。まだ家を出てから少ししか経ってないのに。
こんなところで立ち止まってたせいだ。お店に可愛いアクセサリーがたくさん並んでたから。
あたしはその場を離れて、さりげなく雑踏にまぎれこんだ。
あたしの名前はファリーナ。みんなにはファーって呼ばれてる。このリズの街ではちょっとだけ名前の知られたお屋敷の一人娘。お父様は貴族じゃないけどお金持ちで子供の頃からお嬢様として大切に育てられてきた。でもそれも昨日までの話よ。なぜなら私は今家出中だから。散歩すると言って庭へ出て、従者たちを完璧にまいたと思ったのに、もうバレてるってどういうこと? もしかして、最初からバレてた?
この先どうするかあまり決めてないけど、今連れ戻されるのはまずいわ。早く街を出なきゃ。
角を曲がろうとした時だった。
「お嬢様。探しましたよ」
「きゃー!」
ずっと後ろにいた人が、あたしの進路をふさいで目の前にいた。
「旦那様が心配されています。家に戻りましょう」
「あなた誰かしら。人違いじゃない?あたし、忙しいの」
「ファーお嬢様、いい加減にしてください」
目の前の男は体格がよくて、口調は丁寧だけど怖そうな雰囲気。力ではかないそうにない。
「わかりました。家に戻ります」
あたしはにっこり笑うと
「なーんて、嘘だけど!」
男の脇をすり抜けた。
「待て!」
待つわけないじゃない。
雑踏を走り抜ける。男も後から追ってくる。まだ追っ手は一人みたいだけど、すぐに追い付かれそう。こんなに全力で走ったことないから息が苦しい。
走っていると、人ごみがまばらになってきた。もう限界。
「助けて!」
あたしは、とっさに近くにいた旅人の手をつかんだ。腰に剣を携えてるのが見えたから、戦士か傭兵かも。でも彼はあまり怖くなかった。
「?」
彼はあたしが掴んだ腕を見て、それからあたしの顔を見た。
ちょっと待って。落ち着くのよ、ファー。
目の前の旅人は、あたしが子供の頃から妄想の中でずっと恋していた勇者みたいな顔をしていた。
荒地の砂みたいな髪の色に日に焼けた肌。精悍な顔つき。深い焦茶の瞳は無邪気で好奇心に溢れてる。じっと見られただけなのに、心臓がきゅっと苦しくなった。なんて……なんてかっこいいの⁉︎
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