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あたしはおじさんの言葉にムッとした。
「俺はそれでいいよ。お嬢様は先に行っとけよ」
「嫌よ。あたしもクレストと行くわ」
おじさんはあたし達の顔を見比べた。
「なんだ……もしかして駆け落ちかい? なら金はないな」
そう言ってカウンターへ戻っていった。椅子に座っていた人たちからもため息がでる。
「なんだ。せっかく転移魔方陣が動くところが見学できると思ったのに」
椅子に座っている人たちはみんな見学に来てるみたい。でも二万は無理よ。
***
あたしも転移魔方陣にちょっと乗ってみたかったけど、クレストと一緒じゃないとせっかく二人で旅をしてる意味ないし。
あたし達は建物から出ると、道に並ぶ他のお店をみてまわった。
「ねえ、クレスト、あたしたち恋人同士に見えるのかな?」
「お嬢様と護衛だろ」
「クレストがあたしの事、お嬢様って呼ぶからよ!」
「お嬢様じゃないか」
「ファリーナかファーって呼んで」
「発音しにくい。お嬢様でいいじゃないか」
あたしの乙女心はクレストには全く通用しないみたい。
あたしの気持ちもしらず、クレストは道の脇にあるお土産屋さんに夢中になってる。
「みろよ、お嬢様。うまそうだな」
確かにおいしそうなお菓子が並んでる。クレストは売り子のおばちゃんから試食をもらってる。
「どうだい? 道の駅名物、失われた村まんじゅうだよ」
「うまい」
クレストはおまんじゅうを五個も買っていた。失われた村ってどういう意味だろう。
「ねえ、ここって村があったの?」
おばちゃんはクレストの食べっぷりに満足そうに目を細めながらあたしの質問に答えてくれた。
「昔、そうだね。数十年前までは、ここから先の森の中にひとつの村があったんだよ。小さいけど、グラフに行く旅人も立ち寄ったりして賑やかな村だったよ」
「その村どうなったの?」
おばちゃんはそこで声のトーンを落とした。
「消えたんだよ」
「えっ?」
「消えた?」
「そうなんだよ。ある日突然消えて、それから誰も見たものはいないんだ」
「でもどうして?」
「それもわからない。おまけに森に入ったものは二度と出てこないのさ」
ホラーじゃない。
おばちゃんはけらけら笑った。
「まあ、ほんとのところはよくわかんないけどね。村がなくなって旅人たちが困ったから、道の駅をつくってね。なくなった村をネタに商売してるんだよ。あはは」
本当なら笑い事じゃないじゃない。もしかしてなくなった村っていう話自体がネタじゃないの? まあいいけど。
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