6人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「じゃ、グラフに行こうと思ったら、馬車で海沿いを行くか、森を抜けるか、転移魔方陣しかないの?」
「徒歩で海沿いを行くって手もあるよ。貧乏人はほぼそれだね。すごく遠いけどね。あと山道を行くって手もあるけど、これもお勧めできない。山には山賊が出るんだ。森は今も言ったけどやめといたほうがいい。生きて帰ってこられないよ」
「わかったわ。ありがとう」
おばちゃんにお礼をいってクレストを見るとすっかりおまんじゅうを完食していた。そのまま二人で道の駅のメインストリートを歩く。二人で歩いているとデートみたい。
おばちゃんの言うとおり確かに道沿いのお店は、失われた村を前面に打ち出していた。レストランやカフェもある。
「へぇー、ロストヴィレッジランチだってさ。うまそうだよなあ」
「クレスト、今おまんじゅう食べたばかりじゃない」
「せっかくだから森に行く前にたくさん食べといたほうがいいだろ」
「それはそうだけど、おまんじゅうって結構高カロリーよ、しかもあたしには一個もくれなかったでしょ。ってええっ? クレストもしかして森に行くの?」
クレストはにっこり笑った。
「ああそうだ。村が消えるなんて面白そうだろ?」
「面白くない。しかも森に入ったものは二度と出てこないっておばちゃんが言ってたでしょ?」
「つまりパラダイスだ」
「何がどうしてそうなるの⁉︎」
「なんだよ、お嬢様ときどき怖いよな。じゃしかたない。山道にするか」
「山には山賊が出るのよ」
「そうなんだよな。山賊じゃつまらないよな」
「つまるとか、つまらないとかじゃないの! 危険でしょ。お金だってとられるし、下手したら命も取られるわ。誘拐されて売り飛ばされるかも!」
「お嬢様、想像力豊かだな」
クレストが感心したように言う。
「常識よ!」
と言いながら、クレストには乙女心も常識も通用しないことはうすうす感じていた。
「じゃ、お嬢様は馬車か魔方陣でグラフに行けよ。おれはちょっと森に行ってくる。グラフで落ち合おう」
「……」
「じゃあな、お嬢様」
「待って!」
「どうした?」
「クレストって意地悪ね。あたしは二人で行きたいの」
「何でだ?」
クレストと付き合うのってすごく難しいかも。まったくわかってない。あたしの気持ちとか。この調子だと、告白したことも忘れてる気がする。
イライラしたけど、我慢した。恋愛って好きになったほうが負けよね。いつかクレストにあたしのこと好きって言わせてみせるわ!
「やっぱりあたしも森に行くわ。突然、消えた村に興味が出てきたの」
「やっぱり、そうだよな!」
クレストは嬉しそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!