失われた村

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 あたしたちはあれこれ悩んだ結果、ロストヴィレッジランチを食べることにした。  ああ、これが最後の食事かも。リズを出てすぐに死ぬなんてあんまりよ。これと言うのもクレストが、クレストが……、クレストかっこいい。  あたしはランチを食べてるクレストに見とれた。どうしてこんなに私好みの顔してるんだろう。どうしてクレストはあたしのこと全然好きじゃないんだろう。好きだったら、簡単に『じゃあな』って言わないわ、きっと。 「ううっ、悲しくてご飯が喉を通らない」 「そうか? じゃこれもらっていいか?」  あたしのデザートはクレストに奪われた。 「クレスト、そのうち泣くことになるわよ。あたしの事を思って泣くんだからっ!」 「デザート取ったくらいで怒るなよ。悪かったよ」  クレストはそう言うと、食べかけのデザートの残りをあたしの口に放りこんだ。  甘い。恋人同士みたい……。仕方ない、森でも村でも行くしかないわ。 *** 「さて、じゃ行くか」  あたし達は道の駅を出てすぐの森の入り口に立っていた。別にどうってことのない森に見える。ハイキングでもどうぞって感じ。  ただ、入り口の小道には柵がしてあって、看板が何枚もたててある。 『危険! 森に入るべからず』 『命を大事にしよう』 『魔物に注意!』 『両親の顔を思い出せ』など。 「ねえ、クレスト、森に入るべからずだって」 「何でだろうな?」  クレストは言いながら柵をすんなり越えた。あーあ。あきらめてあたしも柵を越える。看板の事は忘れよう。  しばらくの間は何事もなく、小道が続いていた。もしかして、ただの森なんじゃない? 別に変わったところもないし、どっちかというと綺麗で空気もいいし。  あのおばちゃんの話自体がネタなのかも。過疎の村をオーバーに言ってるだけとか。そう考えると気分もましになってきた。  でも、何か物音がするたびあたしはびくついていた。 「ねえ、クレスト、何か音がするんだけど」 「ねえ、クレスト、変な影が見えなかった?」 「ねえ、クレスト」  しつこく言ってるとクレストが振り返った。 「お嬢様の声がうるさくて、魔物の気配がわからない」 「ごめんなさい」  あやまると、クレストはあたしの顔を覗きこんだ。 「そんな怖がるなよ。俺がいるだろ? 何かがいても盾になってやるよ」 「!」  きゅーん。あたしの胸の音です。ああ、倒れそう。 「じゃ、手をつないでて」  ついでに頼んでみたら、クレストはすんなり手をつないでくれた。顔が知らず知らずのうちに笑ってしまう。クレストの手は温かくて、大きくて、なんだかとっても安心できた。
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