失われた村

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 しばらく歩いていると、森はけっこう深くなってきた。昼のはずなのに少し暗い感じ。道もだんだん区別がつかなくなってくる。通る人がいないからだ。鳥の声もしない。    ふと見ると、消えかけた道のそばにお地蔵さんがあった。当然だけど、お供え物とかもない。 「クレスト、見て。お地蔵さんだよ」 「へえ、村が近いのかな? まんじゅう持ってくれば良かったな」 「そうね。あたし村が見つかるよう祈っとくわ」  あたしはお祈りしたけど、何となく違和感を感じた。何だろう、このお地蔵さんなんか違う。表情なのかな? 「ねえ、クレスト」  あたしは言いかけて、クレストの険しい表情に気がついた。 「どうしたの?」 「何かいるな」 「えっ?」 「まあいい。進もう」 「ち、ちょっとクレスト!」  クレストは静かにというジェスチャーをすると黙って歩きだした。あたしもぴたっとくっついて歩く。何かいるとか、あたしには全然わからない。でもなんだか背中がぞくぞくする。早く村を見つけて、森を抜け出したいよ。  しばらくして、その声は聞こえてきた。何だろう。動物のうなり声? それに誰かの泣き声。 「クレスト!」  あたしの小声にもクレストは反応しなかった。クレストは、妖鳥と戦った時みたいに傭兵の顔をしてた。すごく集中して、近寄りがたい顔。  あたしがくっつくのをやめると、無意識に声の方へ歩きだした。怖いけど、一人でいるのもいやなので、クレストの後ろからついていく。声は大きくなってきた。何だろう、なんだか寒い。そういえば妖鳥が出た時も、ちょっと寒い気がしたんだ。  少し離れた場所に、狼のような獣が三匹いるのが分かった。うなり声をあげてる。そしてその向こうに、こっちに背を向けて女の子が座っていた。女の子なのか女の人なのかよく分からないけど、とにかく襲われてるみたい!  あたし達の足音に、狼の一匹が気付いた。振りかえる。顔の中央に大きな目、それが一つしかない。すごく怖い。あたしが息を殺してみていると、狼がこっちに向かってきた。かるがると跳躍してクレストに飛び掛かる。 「きゃ!」  クレストはすらりと剣を抜くと鮮やかに狼を切り捨てた。そのまま二匹目の狼に向かう。二匹目にとどめを刺すと、クレストはブーツに隠していたらしい短剣を抜いて、三匹目の狼に投げた。 「ギャウ!」  狼は逃げようとしていたけど、クレストの短剣が刺さって地面に倒れた。それはあっという間の出来事だった。 クレスト強い。って言うかちょっとこわい。あたし、あんまりクレストを怒らさないようにしよう。  あたしは女の人に近づいた。まだ泣いてる。
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