失われた村

7/15

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「あの、大丈夫? もう狼は逃げたわよ」 「ファー!」  突然、強い力でひっぱられた。 「えっ、何?」  クレストを見る、まだ表情は険しいまま。 「あいつら、襲ってたんじゃない。怯えてた」 「どういうこと?」  言いかけて、あたしは女の人がゆっくり立ち上がったのに気付いた。  あ、なんだかすっごく寒い。女の人は顔を手で覆ったまま、こっちを振り返る。 「⁉︎」  この人、人間じゃない。後ろから見たときは人間に見えたけど、前は全然違う。胸のあたりにたくさんの目があって、体は緑色。後ろはスカート風になってたけど、前は足がなくて、蛇のような体をしてる。  手をおろすと、顔に大きな口があった。口からはしくしく……という泣き声らしき声が洩れてる。  魔物は体をのばした。立ち上がったというのが近いかも。二メートルくらいになる。 「ひどいじゃない! だますなんて!」  あたしはパニックになってた。クレストにひっぱられる。  そのまま森の中を走って逃げたけど、蛇の姿の魔物もしゅるしゅると追ってくる。 「クレスト! 追ってくるよ」 「あいつは見たことないな。まだ何か持ってる気がする」 「何を⁉︎」 「分からない。ファー、俺が倒すから隠れてろ」 「大丈夫なの?」 「さあ?」  クレストはこんな時でも落ち着いて見えた。あたしの手をはなすと、追ってきた魔物と対峙する。  あたしはさっと大木の陰にかくれた。蛇とクレストが戦っている音が聞こえる。  大丈夫かな、クレスト。強いんだからきっと大丈夫。でも、あの蛇みたいな魔物、強そう。  大木から顔を出すと、クレストが的確に蛇の目を狙って剣をふるっているのが見えた。クレストは少しも傷ついてないし、息も上がってない。やっぱり素敵。クレストかっこいい。 「クレスト! 頑張って!」  あたしが声をかけると、蛇はくるりとこっちを向いた。 「!」  しまった。蛇はクレストと戦うのをやめてあたしに向かって来た。 「ファー!」  クレストがあわてて走ってくる。 蛇は口を開けた。何かするつもりみたい!  シューッと音がして、霧状の何かが撒き散らされる。何これ……毒?  そんな事を考えてる途中で、あたしはクレストに突き飛ばされた。 「痛っ」  地面に転がって、見上げるとクレストが魔物の首を両手でつかんでた。 「クレスト!」 クレストは蛇をそのまま振り回すと大木に叩きつけた。蛇の口からはまだ霧状の何かが洩れてる。地面に伸びた魔物に、クレストはとどめをさした。 *** 「クレスト……」  クレストは霧状の液体を頭からかぶってた。あたしのせいだ。あたしをかばって。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加