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「あの、大丈夫? もう狼は逃げたわよ」
「ファー!」
突然、強い力でひっぱられた。
「えっ、何?」
クレストを見る、まだ表情は険しいまま。
「あいつら、襲ってたんじゃない。怯えてた」
「どういうこと?」
言いかけて、あたしは女の人がゆっくり立ち上がったのに気付いた。
あ、なんだかすっごく寒い。女の人は顔を手で覆ったまま、こっちを振り返る。
「⁉︎」
この人、人間じゃない。後ろから見たときは人間に見えたけど、前は全然違う。胸のあたりにたくさんの目があって、体は緑色。後ろはスカート風になってたけど、前は足がなくて、蛇のような体をしてる。
手をおろすと、顔に大きな口があった。口からはしくしく……という泣き声らしき声が洩れてる。
魔物は体をのばした。立ち上がったというのが近いかも。二メートルくらいになる。
「ひどいじゃない! だますなんて!」
あたしはパニックになってた。クレストにひっぱられる。
そのまま森の中を走って逃げたけど、蛇の姿の魔物もしゅるしゅると追ってくる。
「クレスト! 追ってくるよ」
「あいつは見たことないな。まだ何か持ってる気がする」
「何を⁉︎」
「分からない。ファー、俺が倒すから隠れてろ」
「大丈夫なの?」
「さあ?」
クレストはこんな時でも落ち着いて見えた。あたしの手をはなすと、追ってきた魔物と対峙する。
あたしはさっと大木の陰にかくれた。蛇とクレストが戦っている音が聞こえる。
大丈夫かな、クレスト。強いんだからきっと大丈夫。でも、あの蛇みたいな魔物、強そう。
大木から顔を出すと、クレストが的確に蛇の目を狙って剣をふるっているのが見えた。クレストは少しも傷ついてないし、息も上がってない。やっぱり素敵。クレストかっこいい。
「クレスト! 頑張って!」
あたしが声をかけると、蛇はくるりとこっちを向いた。
「!」
しまった。蛇はクレストと戦うのをやめてあたしに向かって来た。
「ファー!」
クレストがあわてて走ってくる。
蛇は口を開けた。何かするつもりみたい!
シューッと音がして、霧状の何かが撒き散らされる。何これ……毒?
そんな事を考えてる途中で、あたしはクレストに突き飛ばされた。
「痛っ」
地面に転がって、見上げるとクレストが魔物の首を両手でつかんでた。
「クレスト!」
クレストは蛇をそのまま振り回すと大木に叩きつけた。蛇の口からはまだ霧状の何かが洩れてる。地面に伸びた魔物に、クレストはとどめをさした。
***
「クレスト……」
クレストは霧状の液体を頭からかぶってた。あたしのせいだ。あたしをかばって。
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