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それは狼に刺さってたので、返り血に気を付けて抜く。バルド様じゃないけど、気分が悪くなりそう。でも、そんなこと言ってられない。短剣から血を拭き取ると、あたしは髪を切った。石になった髪は地面に落ちて砕けた。多分これで大丈夫。
あたしの髪、毎日手入れしてサラサラでけっこう自慢だったんだけど。今はバラバラの毛先で酷い髪型。グラフに行ったら美容室に行こう、そして新しい髪型をクレストに見てもらうんだ。
***
あたしは森の中をひたすら歩いた。グラフまで、けっこう遠いみたい。確かに、このあたりに村があったら助かるのに。
歩いていると、獣の気配がした。狼みたいな、うなり声。
クレストのばかっ。魔物、まだいるじゃない。あたしは短剣を持って来てたからそれを構えながら走った。
二匹ほど、目がひとつしかない魔物がこっちに歩いてきていた。あたしは走りながら石を拾った。この石、灰色っぽい。何かの一部だったのかな。
よく見ると、石になった花やタヌキとか、信じられないけど人の姿も! 森のあちこちに存在していた。旅人はみんな石になっちゃったんだ。やっぱりホラーじゃない!
狼があたしに気付いたらしく、うなり声を上げて走りだした。
きゃーっ! どうしよう!
全力で走ってたら、いつの間にか道が無くなってた。あわてて立ち止まる。目の前は崖になってた。
後ろから狼が近づいてくる。目の前は崖、のぞくと下に川が見えたけど落ちたら死ぬか大怪我を負うレベルの高さ。
あたしは崖の近くにあった木に登った。狼なら登ってこれないはず。崖に落ちたら死ぬかもしれないけど、そっちは見ないようにしよう。あたしがよじ登ると、木の下に狼型の魔物がやってきた。うなりながら前脚で幹を引っ掻く。
どうかこれ以上登ってこないで!
あたしは拾っておいた石をポケットから出して、狼にぶつけた。
「ギャン!」
やったわ! ひとつしかない目に命中! だけど全然あきらめないで幹を引っ掻いてる。もう一匹もやってきた。一匹目の背中を踏み台にして、さらに上に登って来る。
「ちょっと! やめてよ!」
あたしは短剣を振り回しながらさらに上によじ登った。これ、もしかして一生降りられないんじゃない? 一匹ずつ倒すしかないのかも。でも怖い。クレストは一瞬で倒してたのに。
魔物はずっと木の下で吠えたり幹を噛んでたり、移動する気配ゼロ。
頑張るのよ! ファー!
あたしは慎重に下の枝に降りた。狼の牙がかろうじて届く範囲に短剣を振り回す。目をねらって。
「わっ!」
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