ファーの旅立ち

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「あの……助けてくれる?」 「お前誰だ?」  きゃあ! 声も素敵! 「あたしはファリーナよ。追われてるの! 助けてくれない?」 「お嬢様、おとなしく戻ってもらえなければ無理にでも連れ戻しますよ! なんだお前は?」  男があたしに追いついて、あたしと一緒にいる彼に目をやった。あたしはさっと彼の後ろにかくれた。 「追われてるのは人間か」 「おい、お嬢様を離せ! 痛い目にあいたいのか?」  あたしたちの様子を見て、周囲にいた人達がさっと道をあける。みんな関わりたくないみたい。そうよね……。  彼と追っ手の男とどっちが強いんだろう。彼は剣を持ってるけど、旅人はだいたい持ってるらしいから、もしかしたらすごく弱いかも。その時は謝って逃げるべきかな。あたしが逃げれば彼も酷い目にあわないだろうし。  あたしがその場を離れようとした時だった。ドスッという鈍い音が周囲に響き、追っ手の男が気を失ってその場に崩れる。 「えっ、今、何したの?」  彼はちょっと困った顔をしていた。 「人間相手だと、加減が難しいな」 「あなたがやったの? 強いのね……」 「気を失ってるだけだと思うが、どうする?」  追っ手の男に恨みはないけど。 「逃げましょう!」  あたしは彼を引っ張って、その場から離れた。 *** 「助かったわ。ありがとう」  あたし達は人通りの少ない路地裏にやってきていな。 「いや、いいんだ。じゃあな」 「待って!」 「何だ?」 「ええと、あの、名前、名前教えて!」 「クレストだ。じゃあな」  クレスト、素敵な名前……。うっとりしている間にクレストは立ち去ろうとした。なんて素っ気ない人なの? そこも素敵だけど。 「待って、クレスト。もしかして急いでるの?」 「いや」 「じゃ、少しあたしに付き合ってよ。ね? いいでしょ」  あたしはお腹がすいていたので、近くにあったお店に入った。小さなお店でメニューもお客さんも少なかったけど、家出中だから贅沢はいえない。 「助けてもらったお礼に、何かおごるわ。何でも注文して」 「追われてるんじゃないのか?」 「見つかったら、また逃げるわ。それよりお腹がすいて動けないんだもの」
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