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あたしのふりまわした短剣に狼はがっちり噛み付いた。鋭い牙、力を入れたけどびくともしない。
あたしは魔物のひとつしかない目をにらんだ。
「きゃあっ!」
狼はあたしの短剣をくわえてるのをいいことに、木に登り始めた。まずいわ、離さなきゃ登ってきてしまう。でも離したら武器がなくなってしまう。
焦ったあたしは、足で魔物の顔を蹴ることにした。足をゆっくり移動させて……。そして。
「ギャン!」
よしっ! ナイスあたし!
魔物は短剣をくわえるのをやめてバランスを崩した。でも、あれ? あたしもバランス崩してる?
えっ、えっ、落ちる! 足が滑って、片手では体重を支えられない!
あたしはそのまま下に落ちた。つまり、崖の下に。
「きゃあぁーっっ!」
死んだかも。
***
どすん。
生きてた。かろうじて。ちょっと痛いけど、どこも怪我してないみたい。濡れてもない。なんで?
あたしは起き上がって、周囲を見回した。ここ、どこ?
あたしは地面の上に倒れてた。崖も川もどこにもない。目の前にモヤモヤした、白い幕みたいなものがある。その幕にさわってみると、白い幕は透明になった。一瞬だけ。
透明になった時、ちょっとした段差と、あたしが登ってた木と、二匹の魔物が見えた。こっちに気付いてないみたい。えーっ。何よこれ。
そして、白い幕の内側には建物があった。木造の建物。ちょっと古びた感じだけど、何軒もあって、村みたいになってる。
「ここ、もしかして失われた村⁉︎」
あたしはこの発見に興奮した。白い幕の内側にあるから、消えたように見えるんだ。理由は村をまわれば分かるかも。
あたしが倒れてたのは、村の入り口付近だった。傾いた看板がある。
『パム村』
パム村っていうのね。外は誰もいないみたい。歩いていって一軒目の家をチェックする。
「こんにちは、誰かいないの?」
木の扉に鍵はかかっていなかった。中も誰もいない。床やテーブルにはうっすらとほこりが積もってる。荒らされた感じはないけど、人が住んでる形跡はない。
あたしは二軒目を見てみた。こっちも誰もいない。キッチンにはいろんな道具が投げ出されてたけど、食材は何もなかった。誰もいないみたい。
あたしはがっかりした。これじゃ何も謎が解けないじゃない。みんなどこに行ったんだろう? 夜逃げ?
だけど、事態はあたしが思うより深刻だったみたい。あたしは村の一角に、墓地があるのに気付いた。そしてその周辺に砕けた石みたいなものがたくさん。
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