失われた村

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「冗談ではないぞ。わしが正真正銘の魔法使いじゃ。この家の主で、この村唯一の生き残りじゃ」 「うそっ、じゃあの日記の人は?」 「人の日記を勝手に読むとは、けしからんお嬢ちゃんじゃの」 「ええっ! だってあの日記、十年くらい前から書いてあったわよ。あなたいくつよ?」  少年はにやりと笑った。 「わしは今年で八十歳じゃ」 「うそーっ!」 「訳あって、薬を飲んだら若返ってしまったのじゃ。あの時は、死ぬかと思ったが」 「信じられない」 「わしも今だに信じられん。この事を誰かに話したのも初めてじゃ」 「だって、どう見ても十代半ばだよ」 「そうなのじゃ。ピチピチじゃろ?」  いう事は確かにおじいさんぽいわね。 「わかった。そういう事にしといてあげる。ところで、石化をとく薬、持ってるの?」 「本当なんじゃが。薬は確かに持ってるぞい」 「ちょうだい!」  自称八十歳の少年は慣れた手つきでお茶を用意してくれた。クッキーもすすめてくれる。気がきくわね。 「お嬢ちゃん、どうやら蛇に遭遇したらしいのう? 石にならずにすんだのはかなりラッキーじゃ」  少年のお茶やクッキーはすごくおいしかった。 「髪の毛は石になっちゃったの。切ったけど」  少年にお嬢ちゃんって言われると、なんか変な感じ。 「そうじゃったか。で、どうやって逃げたのじゃ?」 「蛇は倒したわ」 「何っ⁉︎ あんな強い魔物をか?」 「あたしじゃなくて、クレストが倒したんだけど。でもクレストは石になっちゃったの」 「そうか。まさかあの蛇を倒すやつがいるとはのう……」 「だから、クレストが壊れないうちに薬をちょうだい。お金なら払うわ」 「あいわかった。わしにまかせておけ」  あたしは少年と森に向かう事にした。森に行く前に一軒しかない店で武器をもらった。新しい短剣。  少年は本棚から一冊の本を持ちだしていた。魔法使いってやっぱり本を持ってるんだ。  少年はポチという猫も一緒につれてきた。抱き上げて、ローブの下にくるむ。 「じゃ、村から出るぞい」 「うん」  少年が白い幕に手をかざすと、ぶわっと風が吹いて幕ははじけとんだ。もとの森の中だ。  狼達はいなくなってた。段差には階段があって道が通じてる。 「あたしが見た時は崖になってたわ」 「ほんの目眩ましじゃよ」  クレストのもとにたどり着くまで、あたしは無言だった。  見つけたときはきゅんとした。土に埋まってる。どこも壊れてないよね。 「すごいのう。本当に蛇を倒しておる」  蛇はちょっと食べられていた。多分狼みたいなやつに。気持ち悪い。 「ねえ、早くクレスト治して」 「そうせかすな」
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