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「家出したからよ」
「家出したくらいで、あんな男が追ってくるのか?」
「あたし……もうすぐ結婚しなきゃいけないの」
「それはめでたいな」
「めでたくないわよ! あたしは嫌なの。相手の男にはもう三人も奥さんがいるのよ! あたしは四番目! 冗談じゃないわっ!」
つい興奮して声が大きくなったので、あたしは店内を見回した。店主はあたしたちに興味なさそう。
「落ち着けよ。確かに四番目なんていやだよな。数字も悪い」
「ばかっ! 数字じゃないわよっ! まず相手がいやなのっ! 結婚もいやなの! お父様の顔見るのもいやなのよっ!」
あたしが怒ってるのに、クレストは笑っていた。
「お前、ホントにお嬢様なんだな」
「笑わないでよ。あたしは真剣なんだから」
クレストは何がそんなにツボに入ったのか分からないけど、ずっと笑っていた。失礼な人ね。
「じゃおごってもらった礼に、お前の家まで送るよ」
「だから、あたしは家出中なの。街から出たいのよ」
「お嬢様じゃなくても、一人で街から出るのは危険だ。しかもそんな服装で?」
服装? あたしこれでも一番地味な服着てるんだけど。ミニスカート、ブーツ、フード付きコートの何がいけないの? 色は黄色だけど。
そういわれてみれば、クレストはもっと地味で丈夫さだけが取り柄みたいな服着てた。色もアースカラーのような感じ。
「あきらめて家に帰れよ。両親を説得するの手伝ってやるよ」
「いやよ!」
立ち上がってテーブルに二人分のお金を置く。
「助けてくれて、ありがとう。じゃあね!」
あたしは家出を続けることにした。あーあ。せっかくかっこいい人と知り合いになれたのに。
つけられていないか充分に警戒しながら、街はずれまでやってきた。リズの街は高い壁でぐるっと囲まれていて、街から出ようと思ったら壁を越えるか門から出るしかない。壁を越えるのは一般人には無理ね。
「うっ!」
リズの街の門は開かれてたけど、門番がいて誰かと話してる。その誰かはクレストが気絶させた追っ手の男にそっくり。ご飯なんて食べてないでさっさと街から出れば良かったわ。
追っ手の男が門番にお金を渡してる。これは徒歩で門から出るのは無理ね。変装でもする? 自信ないけど。
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