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あたしは門の前の広場にとまってる馬車に目を付けた。何台かあるから、あのうちの一台に乗せてもらうか、隠れよう。そしてそのままどこかの街に行ってしまえばいいんだわ。
門番に見つからないように注意して、馬車が集まっている広場に近づいた。太ったおじさんが荷台で仕事をしてる。
「ねえ、この馬車どこへ行くの? 首都方面に行く馬車ってある?」
おじさんは優しそうな笑顔だけどきっぱりと言った。
「馬車は出ないよ」
「えっ! どうして?」
「魔物が出たんだ。いつも出る小さいのじゃなく、ばかでかい鳥みたいなやつだ。誰かがあれを討伐するか、魔物がどこかへ行ってくれない限り街から出られないよ」
「そ、そんなぁ」
「さっき聞いた話だが、ジャイタから来た馬車は襲われて大量の魔石を食われたって話だ。幸い、魔物専門の傭兵が通りかかって死人は出なかったらしいが。そんな話を聞いたら誰も馬車なんて出さんよ」
魔物専門の傭兵ってまさかクレスト? そういえばクレストってジャイタから来たって言ってたわ。
がっかりしてるとギギーッという大きな音がして、門がしまりかけているのが見えた。
「ち、ちょっと! どうして門を閉めるの⁉︎ 出られないじゃない!」
あたしは隠れていたのも忘れて門番につめよった。
「おや? もしかしてファリーナお嬢様ですか?」
あ、しまった。
「違うわよ。でもどうして門をしめるの」
「お嬢様、家のかたが探されてますよ。門は魔物が出て危険なので、閉めることになったんですよ」
「あたしが出てから閉めてくれる?」
門番は鼻で笑った。
「お嬢様、門があいてから家族の方と来てくださいね」
あたしは仕方なく馬車の荷台にいたおじさんに話しかけた。
「ねえ、魔物専門の傭兵ってどんな人だったの?」
「聞いた話だが、まだ若い男らしい。ジャイタの鉱山では有名だったみたいだな」
「ふーん。その人がいたら馬車出してもらえる?」
「いつまでも街から出られなくても困るしなあ。そんな奴がいたら助かるな」
「そう。わかったわ」
もう一度クレストを探さなくちゃ。一緒に馬車に乗ってもらえば安心だわ。
あたしはクレストがいないか、さっきのお店のあった路地裏に戻ってみることにした。いなくてがっかりしたけど、まだ街にはいるはず。門も閉まってるし。メインストリートの方に行ってみようかな。
「ファーお嬢様!」
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