ファーの旅立ち

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 あたしは父親の向こうずねを蹴とばすと、痛がる父親を無視して男達の後を追った。 「お嬢様」  途中メイドのリリーに呼び止められた。 「何?」 「あんな傭兵と本当にお付き合いされてるんですか?」  あんな傭兵とは何よ。 「付き合ってないわ。知り合いだけど」 「それを聞いて安心しました。私は絶対にお嬢様はバルド様と結婚すべきだと思います」  バルドってあたしの婚約者の事ね。 「どうして? あたしよりずっと年上なのよ」 「そこがいいんじゃありませんか。あの白髪まじりの髪! ロマンスグレーとはこの事ですわ」 「奥様が三人もいるのよ」 「気楽でいいじゃありませんか」 「あたしと同じ年くらいの息子も」 「きっと男前ですわよ」 「リリーって前向きね。代わってあげたいわ」 「私も、できることならお嬢様と代わりたいです。旦那様も素敵ですけど」  あのドケチ親父のどこが素敵なのよ。ついていけない、この感覚。  あたしはリリーを振り切ってクレストを探す事にした。  クレストは倉庫に閉じ込められていた。ちょっとひどいんじゃない? この待遇。 「クレスト、大丈夫?」  鍵がかかっているので小さく開いていた窓から中を覗く。クレストは床に寝そべっていた。 「ああ、お嬢様。なかなか快適だな、この部屋。物がちょっと多いが」 「ここは倉庫よ。それよりお父様の事、ごめんなさい。宝石はとりかえすわ」 「気にするな。あれは素人に扱える石じゃない。お前の父親もそのうち手放すよ」 「どうかしら。お金に目がくらんでるから。最低よ、あんな父親」 「そうか? いいお父さんじゃないか」 「どこを見たらそんな事が言えるのよ」 「おれの親父は魔物専門の傭兵だったんだ。もう死んだけどな。だから生きているだけでいいと思うぞ」 「そうなの……辛かったわね。魔物にやられたの?」 「ああ。魔物にやられた傷がもとで……風邪をこじらせて死んだんだ」 「それって単に風邪のせいじゃないの?」 「そうか?」 「とにかく、あたし宝石とここの鍵をさがして持ってくるわ」 「いや、石には近づかないでくれ。他の奴も近よらせないでほしい。鍵となんかうまい食い物持って来てくれよ」 「わかったわ。クレスト、うちに来てくれてありがとう」  なんとなく、うちの料理が目当てのような気もしたけど、やっぱり嬉しかった。
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