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部屋に入ると、男は全身を毛布で覆っていた。隅の方で蹲り、小刻みに震えていた。目を固く瞑り、両手で耳を塞いでいる。何かぶつぶつと呟いているが、声が小さく聞き取れない。
「神泉さん」
私は男の名を呼んだ。耳を塞いでいるせいか、反応はなかった。
私はゆっくりと歩み寄った。きしりと音がし、神泉氏の近くまで行くと、床の僅かな振動が伝わったのか、一度びくりと体を大きく振るわせ、ゆっくりとこちらを向いた。
「覚えていますか? 池ノ上です。」
「あんた……」
神泉氏が私の方へ身を乗り出す。それと同時に、私は彼の手首を掴み、肘のあたりまで毛布を捲り上げた。
指先から肘上まで、真っ黒な痣が広がっていた。
神泉氏は小さく声をあげ、反射的に手を引っ込めた。その拍子に彼を覆っていた毛布がはだけた。額、首、鎖骨。大きさはまばらの、黒い斑点がいくつも見えた。おそらく服の下にも広がっているのだろう。
「神泉さん、続けたのですか。あのお祓いを」
神泉氏は躊躇いがちに頷いた。
話は半年前に遡る。
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