いつかの君に。

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息を吸って、画面に表示されるボタンを押す。 今この時間からわたしは、わたしであってわたしではない何かになる。 「こんにちは!」 普段ならそんな人のよさそうな明るい雰囲気なんて出すはずもない。 けれどここでは違う。 ≪あおさん、こんにちは≫ ≪今日も楽しみ≫ チャット欄に示される、少数のコメント。 「今日も来てくれてありがとう~」 そう。 わたしが手に入れたのは、配信の世界。 わたしに少しだけ似せた、普段なら絶対作らないような可愛らしいアバターにふんして、知らない誰かとの会話を楽しむ、バーチャルな世界。 今わたしは、そんな世界に縋っている。 もともと君と出会ったのも、こんな感じだったね。 声を使うか、文字だけなのかの違い。 ≪今日はなにするの?≫ ≪昨日の配信めっちゃよかった!≫ 肯定のようなコメントに、複雑な気持ちを抱きながらも、わたしは何事もないかのように世界を構築していく。 わたしは、嘘つきで空っぽだ。 本当の気持ちなんて言えたことないし、自分をありのままに晒せたこともない。それ以上に、わたしがわたしたる所以すらない。 わたしのなかには何もない。 偽りの傀儡。 けれど、そんなわたしだから、何にでもなれるのだろう。 ポジティブな君ならきっとそう言ってくれる。
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