幼馴染が恋人

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 ふたりでいることが自然になっていった。ちょっとしたことでも気がついてくれたり、いろいろ言い合いながらもなんとなく意見が合ったり、やはり幼馴染だと感じる。 「じゃあな」 「おう」  最近陽明は優斗の部屋に寄らない。なにかあったのかと聞いたが、曖昧に首を横に振られるだけだった。  帰っていく背中を見ると、もっと一緒にいたいのに、と淡い願望が胸に灯る。落ちつかない感覚は心をさざめかせた。  そんなことが続いて数日経った。陽明が久々に優斗の部屋にきた。本人の意志ではなく、陽明の両親が結婚記念日なのでふたりで食事にいくからと、陽明に優斗の家で夕食を食べるように言ったからだ。ぎりぎりまで陽明は「ひとりでいい」と言っていたが、優斗の母親が無理やりに近いくらい強引に誘ったので結局オーケーした。 「あの女子にはやっぱり腹立つ」  優斗の部屋に入ってすぐに文句を言いはじめた。もしかしてこの数日、ずっとぼやいていたのだろうか。 「もう忘れろよ」 「忘れようと思っても、突然思い出して腹が立つんだよ」  存外しつこい男のようだ。けっこうあっさりしたタイプかと思っていたが、知らない一面を知って楽しくなった。  部屋に陽明がいる。それがとても落ちつくのに落ちつかない。相反する感情が交錯する。 「陽明」  不本意にも慣れた手つきで優斗より高い位置にあるうなじに指をまわして顔を近づけるが、手のひらで優斗の唇を覆って拒絶された。はじめての反応だ。 「どうした?」 「優斗とは、もうキスできない」  別にキスがしたくてしていたわけではなく、負けたくない一心だったので優斗はかまわない。そんな優斗の気持ちがわかったのか、陽明は首を横に振った。 「優斗が好きだから……好きだって気がついたから、気持ちのあるキスじゃないと嫌になった」 「俺も陽明が好きだけど?」  そんな今さらなことを、突然どうしたのだろう。陽明は真剣な表情で優斗を見つめる。滅多に見ない面持ちに緊張が背筋を走った。 「恋愛感情を持ってほしいんだ」  うなじに添えられた手から逃げるように身体を離し、ラグに腰をおろした陽明が、優斗を見あげる。その瞳には熱がこもっていて、優斗の心は甘く疼いた。 「ずっと考えた。俺の中にある優斗への感情ってなんだろうって」 「うん」 「考えて考えて、ようやくわかった。俺は優斗が好――」 「待って」  思わず言葉を遮った。驚きや混乱以上に、喜んでいる自分がいる。その感情に戸惑い、陽明が逃れていった左手で自身の右手首をさすった。そんな優斗の姿は陽明にどう見えているだろう。 「……俺」  なにを言ったらいいのかわからない。どう言葉にしても違う気がする。答え方に迷い、目が泳ぐ。陽明は優斗の左手を取り、手のひらに顔を寄せた。 「無理しなくていい。でも、俺を意識してくれ」  柔らかな唇が手のひらに押し当てられる。その熱はじわじわと全身に広がっていった。  意識して、とはどういうことか。陽明はあれからいつものように笑いかけてくれるけれど、その心の中には優斗への恋愛感情があると思うと戸惑う。  陽明が嫌いなわけではない。「好きか」と聞かれたら「好きだ」と迷わず即答できる。だがそれは――きっと違う。  幼馴染との距離の取り方がわからなくなった。  突然の告白から二週間が経つが、一度もキスをしていない。優斗の勝ちかな、と考えて、そもそも勝負なんてしていない、と自身に笑う。  陽明は自然にそばにいてくれて、優斗に穏やかな落ちつきを与えてくれる。このままの関係でいると、陽明は苦しいかもしれない。  自分の気持ちを、きちんと考えたい。
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