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4.
「まずは検査をもっとしてみて、もう少し様子を見なければならないが…···. これがすぐ戻ってくる場合もあるし、全く戻ってこない場合もあると医師が言っていたよ。 ハンビョルも自分が記憶喪失症だということを知っている。 あいつ…···. たかが一年の記憶がなくなったのは大したことじゃないと、あえて淡々としたふりをするが…···. 正直、自分も混乱するだろう。 撮っていた映画も何か、これまでどんな作品をしていたのか、一つも思い出せないはずだから。 でもありがたいことによく耐えているようだ。 こんな時だけ私のお父さんに似ているんだから」
そのまま息を呑んだ夏は泣かないために点滴台をぎゅっと握った。 たかが一年ではない。 その一年が二人には愛を共にした日々だった。
「じゃあ、ハンビョルは······ 私を」
「覚えてないわ」
予想したが、いざその返事を聞くと、息が詰まるほどだった。 崩れないように我慢している夏に、彼女はもっと残酷な言葉を言い出した。
「それでなんだけど…···. I。 君がうちのハンビョルを助けてくれたのはありがとう。 あなた なかったらどうなっていたか想像するのも嫌だから。 それで、あなたにハンビョルが喜ぶなという話はできない。 今までやってきたように、知らないふりをして目をつぶってあげることができるんだよ」
しばらく言葉を濁した彼女は、夏をちらりと見て、やっと言葉を続けた。
「でも今、ハンビョルはあなたを全く知らないじゃないか。 だから、私の言っていることが理解できるでしょう? あなたが私たちハンビョルを好きなのはあくまでもあなたの自由だから、そこまではタッチしないよ。 とにかく君がハンビョルを助けてくれたから。 二人が好きで付き合っていようが付き合ってまいが干渉しないということだよ。 ただ、ハンビョルが君のことを覚えていればだよ。 分かった?だからといって中途半端にハンビョルにありのままを言うつもり。 しないほうがいいよ。 あいつ、あなたに会う前までゲイは嫌悪していたやつだったから。 これは私があなたにしてあげられる最初で最後の忠告だと思っておいて」
今の夏は彼女の言葉を全部理解できなかった。 いや、理解したくなかった。 唇をかみしめてやっと淡々と口を開いた。
「ハンビョルに会って直接…···. 聞きたいんだけど」
泣くのを我慢している夏の姿に長いため息をついた彼女は、冷静にその申し出を断った。
「おい、何度言うんだよ。 ハンビョルが「あなた」知らない、知らない! あなたのことは一つも覚えていない! 君が自分の命を救ってくれた友達だということしか知らない。 そこまでにして。 友達として残っている。 まだ医者が安静にしなければならないと言ったので、今日はだめで、数日後に私たちが挨拶のために一度寄ってみるよ。 それが礼儀だから」
冷たく背を向ける彼女を夏はどうしても捕まえられなかった。 ここまで来たので、もう一度だけ見て行くと哀願もできず、馬鹿のようにぼうっとしていた。 そうするうちにどっと涙が出た。
彼女の言葉が全部嘘のようだった。 どうしてユ·ハンビョルの頭の中から一年だけ消えたのだろうか。 とんでもない話だった。
現実を否定したいが、少し前に自分を眺めていたハンビョルの表情を忘れることができなかった。 頭に包帯を巻いた彼は、夏を知らない人扱いした。
腕ではなく心臓が裂けた感じが全身を貫通した。 ひょっとして自分も死ぬことができる状況の中で、命とも交換して奴を助けた代価が存在の拒否だとは思いもしなかった。
廊下にぽつんと立つ夏の目の前が涙で揺れた。 音を出さないために唇をかみしめてすすり泣いていた時だった。 誰かが夏の手にティッシュの束を無理やり握らせた。
ぼやけた視野の中に入ってきた男は、白いガウンを羽織った男の医者だった。
「腕が使えなくなりそうで、怖くて泣いてるの?」
医者の問いに夏はただうなずいた。 そのほうがやさしい言い訳なら、そう誤解するように放っておいた。 すると、男は夏の背中を軽くたたいて慰めの言葉を投げた。
「大丈夫。傷跡が大きく残るだけで、手術は完璧に終わったから。 医者が何人もくっついているのに」
腕なんか気にしなかった。 すでに心臓が壊れてしまった夏は、むしろその時に死んでほしいという考えが頭の中にいっぱいだった。 両親が自分のことをどれだけ心配していたかなんて眼中にもなかった。 ただハンビョルが私の存在を忘れたということのために生きる価値を失った感じだった。
「二日間気絶したやつがこんなに泣いたらどうするんだ。 手術した甲斐もなく」
夏が涙も拭かずに泣き続けると、結局医師がティッシュで頬を拭いてくれた。 そうして出会った視線に、医師は淡い笑みを浮かべながら、優しくささやいた。
「目がきれいだね。 泣くから宝石のようにきらめくよ」
その言葉、ハンビョルも言ったのに。 その慰めが夏の涙をさらに煽り、たまたま通りかかった看護師たちに患者を泣かせたという叱られた医師は困惑した。
自分の病室に戻ったヨルムは、母親にもう一度すべての事実を伝え聞いた。 ペク·ソヒの言葉が正しかった。 ハンビョルは解離性記憶喪失症で、夏を覚えていないという。 しかし、夏は受け入れられなかった。
それで次の日、その次の日にもハンビョルに訪ねたが、せいぜいありがたいという機械的な挨拶だけを聞かなければならなかった。 足を踏み入れるほど、ハンビョルは夏をもっとぎこちなく思った。 それでこれ以上訪ねることができなかった。
彼女の言うとおり、夏の場所はそこまでだった。
ハンビョルの退院は夏より早かった。 心身の安定のため、自宅で医療スタッフを置いて治療するというペク·ソヒの意見を病院が受け入れたからだ。 大きな手術をした夏は、リハビリまで考えると、まだ1ヵ月以上滞在しなければならなかった。
彼が退院した日。 ハンビョルは初めて夏の病室に来て挨拶をした。
「早く退院してほしい。 学校で会おう」
ハンビョルは演技する口調で、ヨルムに親しみのあるふりをした。 夏が覚えている限り、星はどこにもなかった。 病室でわずか5分しか滞在せず、未練もなく去ったハンビョルが無情だった。
なぜ自分のことを覚えていないのかと問い詰めたかったが、そうすればするほど患者に混乱をもたらすだけだと言った。
このまま覚えていないんじゃないかな。 最悪の場合まで想像していた夏は、それでも希望をあきらめなかった。 交通事故の衝撃で生じた記憶喪失症は次第に好転する場合も多いと聞いた。
忍耐心を持って待っていると、記憶が戻ってきたハンビョルが夏を訪れるだろう。 すまないと言って手が届くように祈って謝るつもりだ。
そうやって来るだろう。 きっとハンビョルは夏を思い出すだろう。 これは自分との長い戦いだと思った。 そう信じて夏は一日一日を耐えた。
病室で自分に背を向けた後、ハンビョルからはこれといった連絡がなかった。
あいつは相変わらず忙しかったし、また一人になった夏は寂しかった。
人々の記憶からあの日の事件が忘れられる頃。 いつの間にか熱い夏が始まった。 その時まで病院の世話になっていたヨルムは、携帯電話をいじって緊急に上がってきたユ·ハンビョルの記事を見た。
「ユ·ハンビョル…···熱愛説」
映画監督のユ·ハンソン監督と大韓民国最高の中堅女優ペク·ソヒの息子ユ·ハンビョルの熱愛説。 先日、大きな交通事故に遭った俳優のユ·ハンビョルが、映画俳優のイ·ハナとピンク色の恋に落ちた。 初めて2人が好感を感じるようになったのは、交通事故に遭ったユ·ハンビョルのお見舞いでペク·ソヒ氏の自宅を出入りした時だと予想する。 まもなく高校卒業を控えたユ·ハンビョルとイ·ハナは2歳差でイ·ハナが年上になる。 2人が帽子を深くかぶってカフェでデートする姿は、始まったばかりの恋人のように見えた。
夏は何度も何度も読んだ。 今、芸能ニュースの記事には、その2人の話ばかりだった。 所属事務所は幼い頃から友人関係という明らかな返事を出したが、夏はパパラッチが撮った写真の中のハンビョルを見て知ることができた。 彼は彼女に恋をした。
自分に送っていたその視線が夏ではなく他人に向かっていた。 そのまま携帯電話を落としたヨルムは爆発する涙を防げなかった。 一人でぽつんと病室にいたヨルムが大声を出して泣くと、誰かがあたふたとドアを開けた。
「どうしたの!」
その時、その男は医者だった。 たびたび夏の手術傷を消毒しに来ていた彼は、泣く夏を黙って見ていたが、静かにドアを閉めて近づいてきた。
「ウアアアアン!アアアアア! ああああああ!」
「愛、それは変わる。 大したことではない。 だから君たちがする愛は愛ではない。 ただの性的欲求。 「好奇心であるだけだよ」
その日、カフェで夏の胸を痛めた彼女の言葉がふと思い浮かんだ。
そうだ。愛、それは大したことじゃなかった。 いくら命をかけて愛しても変わるのが愛だった。 夏には大切な一年という時間がハンビョルには大したことないように愛はすぐに変わるものだった。
純粋に信じて待っていた人がバカだったのだ。
狂った人のように泣いている夏を医者は静かに抱いた。 何も聞かずに彼はただ胸を貸してくれただけで、夏の苦しい涙は医者の白いガウンを濡らしていった。
熱い夏の始まり。 愛だと思っていたその感情が粉々に砕けた瞬間だった。
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文章が滑らかではなくて申し訳ありません。
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