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7.
「ハンビョルさん。本当に副代表と談判するんですか?」
「そうですよ。私が冗談でそんなことを言う人に見えますか? 私、そんなに暇な人じゃないんですよ? 私、ユ·ハンビョルです。 私がここに出るとしたら、契約金を払って連れて行く会社が多いということはご存知ですよね?」
神経質に話すハンビョルの勢いにそばにいた男は汗をだらだら流した。 私たちだけで対話で解決しようという男の哀願を断ったハンビョルは、エレベーターのドアが17階で開かれるやいなや、躊躇なく廊下を横切った。
遠く先を行く彼を眺めながら、夏は静かに後を追った。 どうせ彼らの最終目的地は同じようだった。 一足先に副代表室のドアの前に到着したハンビョルは、「困る」という秘書の引き止めにも、いきなりドアを開けて入った。
どうしてもついていけなかったイチーム長という男が、閉ざされたドアの前で戦々恐々としていた時、ヨルムは秘書の机を小さくたたいた。 困った表情でドアを眺めていた秘書が夏を見て落ち着いて微笑で応対した。
「どうしていらっしゃったのですか」という質問に、「夏は小さい弟だ」と答えた。 これに先立って、ユ·ハンビョルが急いで兄とミーティングをしているので、しばらく待ってほしいという了解にうなずいた。
思ったより長くはかからなかった。 10分ぐらい経っただろうか。 最初とは違って、おとなしくドアを開けて出てきたハンビョルは、余裕のある笑みを浮かべながら悠々と席を離れた。
「ハンビョルさん。副代表と何を言ったんですか? え?変なこと言ってないですよね? え?」
「イチーム長。 こうすると他の人たちが誤解します。 ユ·ハンビョルのマネージャーは1ヵ月に1回ずつ変わる。 こんな噂を聞いたところで。 会社も私もお互いに良くないじゃないですか。 そうじゃないですか? その前にいたマネージャーを早く復帰させてほしいと言いました」
「いや!病院でリハビリしている人を今どうやって復帰させるんですか! 一ヶ月だけ。 一ヶ月だけ我慢してくれって!」
エレベーターの前で止まったハンビョルは、イチーム長を見下ろしながら明るく笑った。 素敵な笑顔だったが、李チーム長は怯えた表情で後ずさりした。
「一ヶ月。それではイチーム長がしますか?」
静かにささやいたその言葉を最後に、二人はエレベーターに乗って消えた。 遠くでその姿を静かに見守っていたヨルムは、しばらくここがどこなのか忘れていたが、秘書の言葉に気がついた。
「お帰りください」
「あ、はい」
案内を受けて入った部屋の中はシンプルだった。 メタルデスクと黒い革の長いソファー、そして大人の背丈ほどの植木鉢2つが全部であるそこを見回しながら、夏はソファーに座った。
兄はすでに向かいに座って、深刻な表情で散らばった状態だった。 ネクタイをほどいたのを見ると、ストレスが相当なようだった。
「どうしたの? 私、このまま行こうか?」
「違うよ…···. はあ」
言葉ではないと言うが、兄の表情は硬くなっていた。 とにかく、軽く冗談を言うような雰囲気ではなかった。 わけもなく気まずくなったヨルムが部屋の中をあちこち見回していると、兄が短く舌打ちをした。
「あなた ユ·ハンビョル見た?」
「まあ…···. ちょっと」
夏はワンテンポゆっくり答えた。 どんな表情で話せばいいのか分からなくて悩んだが、幸い兄は目を閉じていた。 兄は頭が痛いのかこめかみをぎゅっと押さえながら夏に身の上の嘆きを吐き出した。
「あいつの性格は本当に。 気持ちとしては契約でも何でも出て行けと言いたいのに···…. はあ」
上品なお兄さんがここまで言うくらいなら、全部言ったのだった。 考えてみるとやつは昔からそうだった。 気難しい性格のせいで、周りの人たちが耐えられなかった。
「私の親の後光のおかげで、周りから甘やかされているのだから、なんと恐る恐るもなく這い上がっているのだ」
「どうしたの、どうしたの」
夏が解決してくれることができない問題だろうが、対話の流れ上、理由を尋ねなければならないようだった。 乾いた顔をしていた兄は、急いで立ち上がり、机の方へ歩いていった。 のどが渇いたのか、机の上に置かれた「アイスコーヒー」をがぶがぶと飲んだ。
「あなたも一杯くれる?」
「いや」
一気に杯を空けた兄は、長く深呼吸をした後、夏の向かい側に再び座った。 コーヒー一杯で余裕を取り戻した兄の口元に淡い笑みが広がった。 普段、夏が知っていた兄の姿だった。
「それで、私に会おうと言った理由は?」
「なんで話を途中で切るの。 人が気になる。 どうしたの。」
兄は話を変えたが、夏は執拗に食い下がった。 どうやら、一つ一つのことだからそうだったようだ。 兄はそんな夏を意味深長な視線で眺めた。
瞬間、ドキッとするヨルムが兄の視線を避けてきょろきょろする時、兄は水っぽく笑った。
「そうだ、私の精神を見て。 うっかりしていた。 あなた ハンビョルと結構仲良かったよね。」
たよね。過去形の兄の言葉に夏はぎこちなく笑って目を伏せた。 このような対話をするためにここに来たわけではないが、どういうわけかそうなった。
10年前、その事故が起きて数日後。 警察が訪ねてきてユ·ハンビョルとヨルムがなぜ同じ車に乗っていたのかに対する経緯を尋ねた。 恋人同士と言いたかったが、本当のことが言えなかったので、適当に言い繕った。
友達の仲。 撮影現場について行きたくて、ヨルムがハンビョルにせがんだと。 一番簡単な言い訳で、大人たちは疑いなく信じていた。 しかし、事故後、彼らは友人でも何でもなかった。
「久しぶりに会ってどう? 芸能人のオーラがぱっと出るだろう?」
「そうだね」
さっきまで怒っていた兄は跡形もなく、彼の表情には所属芸能人に対する自負心がいっぱいだった。 目を輝かせてユ·ハンビョルがどれほどすごい男なのかを羅列し始めた。 すでに知っていることだが、兄は口が渇くほどユ·ハンビョルを称賛した。 そうするうちに、また力なくため息をついた。
「仕事の方は完璧だが、問題がいくつかある。 まああいつも人間だから完璧ではないだろう。 でも、それをケアする私たちは死にそうだよ。 記者たちを呼んでご飯おごって、お酒おごって、お小遣いまであげて。 自制しろと言っても聞かないんだよ。 おかしくなりそうだ」
「そこまでするの?」
いくら記事一つでイメージが変わるのが芸能人だが、記者たちにここまでするとは知らなかった。 驚いた夏の問いに兄は長いため息をついた。
「あいつが記者たちの腹だよ、何でも一列出てくるんだから。 だから私たちはよく見てくれとかがんでいるし。 問題は、あいつの性格のせいで マネージャーたちができないんだって」
「できないの?何を?」
「今のマネージャーもあいつとはもう仕事できないと出て行った。 元々一緒に働いていたマネージャーは、「あの子のせいで記者たちともみ合いになり、腰を痛めたんだ。 ところでまた臨時方便で引き受けたマネージャーが気に入らないって? そのせいで副代表である私に攻め入ってきて、この大騒ぎをしたの。 元々マネージャーを連れて来いって。 それでもそうだね。まだ退院もしていない人をどうやって呼ぶの? ユ·ハンビョルの性格がああだ、素直に言うことをよく聞いて、気に障ると代表も何もない」
兄は首を小さく振った。 何を言っているのか大体わかった。 事件·事故の多いユ·ハンビョルだった。 その中でも断然スキャンダル記事が多く、そのために記者たちとよくもめているようだった。
兄と会話を続けた夏は意外と淡々としていた。 改めて驚くこともなかった。 ユ·ハンビョルは元々そんなやつだった。
もうユ·ハンビョルに関する言葉はさておき、私の話を切り出したかった。 ここに来た目的をね。
「兄貴…···. 「イッチャナヨ」
「君がやってみる?」
「……何?」
突然の兄の提案に言葉が詰まった夏は目を丸くした。
「あの子の性格にマネージャーを変えてくれないと、明日から仕事しないから。 会社にいるマネージャーたちみんなユ·ハンビョルとは働きたくないと言って。 特にする人がいなければ、今私でもしなければならない状況なんだ。 それでも君たち結構親しかったから。 マネージャーにするように乱暴するかとも…···….違う. 私があなたにとんでもないことを言う。 いいよ、忘れろ。 冗談だよ、冗談。」
兄は軽く手を振って、なかった話に持ち越した。 しかし、その言葉を聞いた以上、簡単に見過ごすこともできなかった。 ヨルムは遅れてここに来た理由を尋ねる兄をじっと眺めた。
不思議にここに来た理由より、何気なく投げた兄の提案がずっと頭の中に残っていた。
「期限は?私運転免許証持ってないんだけど…」. 大丈夫?」
淡々と尋ねる夏を見て、兄はニヤリと笑いながら軽く答えた。
「一ヶ月。病院にいるあいつの担当マネージャーがベテランなんだ。 俗っぽい言葉で引き受けた芸能人には、肝臓でも胆嚢でも全部出してくれるし、それで嫌がる人がいない。 一ヶ月後には復帰可能だそうだ。 まあ、君がするなら運転手は別に貼ってくれればいいのに。 大したことないよ、あいつの性格を合わせるのが難しいからだよ。 スケジュールを見て、事故に遭わないようにケアしてくれる程度? ……. なんで?本当に一回やってみようと思ってるの? ああ、あなた、こんなことさせたからって、お父さんに私が怒られるのよ」
それとともに兄はヨルムになぜ来たのかと再度尋ねた。 ここに就職したいという話は切り出せないまま、夏は「ただ」と言い繕った。 その後、頭の中に何も入ってこなかった。 兄と何の言葉を交わしたのか、どうやって家まで来たのか分からない。
気がつくと、夏は自分の部屋のベッドにぼんやりと座っていた。 どうしたんだろう。 兄は意味なく言った言葉だろうが、夏はその言葉に未練が残った。
一ヶ月。一ヶ月だって。
夏はこぶしを握った右手でゆっくりと胸をたたいた。 ここが痛かった。 ユ·ハンビョルに対するすべての感情を捨てたと思ったが、それは夏の錯覚だったようだ。
10年前の夏は、少しでも奴と幸せな未来を夢見ていた。 10年後も「私たちは一緒にいる」とベッドで愛をささやいた時代。 その10年後、今、彼らは別の場所で別の人生を送っていた。 ひょっとしたら今でなければ二度と出くわすことはないだろう。
夏は考え、また考えた。 今日偶然彼に会ってみたら分かった。 完全に消滅できなかったユ·ハンビョルに対する未練がまだ残っていた。 どうせ無視してもそれだけの未練だが無視できなかった。
事実、自分を覚えていない奴に未練なども贅沢だった。 すでに彼は異世界の人だったので忘れなければならなかった。 しかし、ずっと気になっていた。
そうして丸ごと夜明けまで悩んだヨルムは、翌日の早朝、兄の部屋のドアを叩いた。
明け方になって家に帰ってきた兄は、半分目を閉じたままドアを開けて夏を迎えた。 顔に疲れがいっぱいの兄を見て、ヨルムは淡々と私の決心を語った。
「兄さん、僕はそれにする。 ユ·ハンビョルのマネージャー」
夏は心の赴くままに動くことにした。
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文章が滑らかではなくて申し訳ありません。
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