2話 友達と

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2話 友達と

 初日は『雨宮』様を訪問して現状把握で終わる。  母親から二人の子供の苦手なものが多いこと、栄養が偏ってしまっていることを聞いた。  会社に戻って提案内容をまとめていく。  詩織主任に見せてアドバイスをもらい修正を加える。  定時に終わって部屋を出る。 「マルマメ、夕食は一緒にいかが?」  同期で友人の陽菜乃がちょうど私を誘おうとしていたところだったらしい。  陽菜乃は『香り』部門の営業部だ。  オーダーメイドの香水や消臭剤、施設の展示品や家の調度品の香り付けなどをするらしい。 「いいよ」 「おけおけ、トンカツね! 勝負に勝つ、長期案件に備えてね」 「うん。子供たちの苦手克服。私も小さな頃は食べなさいって言われていたかも。今では問題なく食べられるしありがたかった」 「それはアジメイ案件ですな!」 「だから頑張りたい」  会社近くのトンカツ屋チェーン店へ。 「キャベツ盛り盛りで、トンカツ一枚追加です!」 「よく食べるね」 「頑張ったときの脂はね、よく染みるんだよ」 「食欲旺盛」  トンカツ定食。    大皿にトンカツとキャベツ盛り、タルタルソース、小鉢に刻んだたくあん、いちょう切りの大根とわかめが入った味噌汁、粒が立った艶のある米。   トンカツを箸で豪快に摘まんで頬張る。  パン粉の香りと、サクッとした食感の衣。黄金色に輝いて、流れる油が甘みを引き立てる。  食べ応えのある厚い肉は満足感が高い。  私がトンカツに卓上の甘辛いタレを付けていると、陽菜乃はタルタルソースをトンカツにかけて、四方八方に煌めく星々のような米の上に被せると、カッとかきこんでトンカツを齧り、胡麻ドレッシングをかけたキャベツでさっぱりさせると、再びガツガツと食べ進める。  一息つこうと味噌汁を啜り、ようやくコップの水を呷る。  実は日本酒を飲んでいたのではないかと思えるほど、満足そうに頬を赤らめる。 「幸せそうでなにより」 「美味しいもの。キャベツ、味噌汁おかわり無料が廃止になって、いくつの涙を流しただろうか」 「うんうん」 「興味なしなんだ。あのさ、マメマル」 「改めてどうしたの?」 「私ね、たまに怖くなるんだ。私たちがしてることって恐ろしいことじゃないかって。味を自在にコントロールするとか、香りを好きに変えるとか、本当はいけないんじゃないかって。だって、減塩とか低カロリーとか、テレビやチラシで聞かなくなったでしょ。あれってうちのせいじゃん?」 「『魔法調味料アジメイ』って辛味、渋味、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味をすべて数値化して自在に決定できる技術を使って、代替塩、代替砂糖、代替醤油を作った。健康のためじゃない?」 「うん。でも本当はさ、今食べてるご飯をパンケーキの味にしたり、トンカツをシャトーブリアンのステーキの味にしたりできる技術でもある。今食べてるものが信用できない時代が来るのかなって。アジメイの技術はそれだけ恐ろしい気がして」 「それは大丈夫。技術的にはできても、人の判断が必要だから、使い過ぎないように制限して良いところだけ取ればいい。美味しいとか幸せを届ける、アジメイの技術は最高だよ」  陽菜乃は何を言っているのだろうか?  技術の発展は豊かさをもたらしてくれる。  明日も頑張ろう、アジメイなら雨宮様の希望も叶えられる。
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