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4話 美味しいのために
今日は夕方に訪問した。
まだ夫は帰ってこないとのこと。
幼稚園から帰ってきた二人の子供がテーブルに着く。
母親の考えとしては今のうちに嫌いなものを克服させたいらしい。
「あーちゃん、ちーちゃん。今日はきっと美味しく食べられるからね?」
テーブルにはハンバーグ、レタス、コンスープと米。
小鉢にはひじき煮と春雨サラダ。
「簡単なものですから、豆代さんに見られると恥ずかしいですね。味のプロに見られるとは」
「料理に関してはプロとまでは、」
鞄から調味料を出そうとしたときだった。
足を捻りかけて転ぶ。
床には缶が転がっていた。
拾ってみる、ビール缶だ。
中身が零れてしまったようだ。
部屋はアルコールの匂いがほとんどしなかったのに。
「あ、すみません。ご主人のです、捨てておきます」
「大丈夫です。私がドジなだけで」
「いえいえ、申し訳ないです。では、調味料を使ってみますね!」
「はい。この粉末を水に溶かして、レタスにかけます。一応、香りはほとんどないものを使っていますが、もし香りがあった方が食べやすいのであれば用意できますよ?」
「そうですか。あたしは香り部門もお世話になってます。子供たちも匂いに敏感ですし、あたしも他社の派手な香水では年相応になりませんから」
雨宮様は料理が美味い。
コンスープも自力で作っているらしい。
料理が好きなのだろうか?
子供たちの苦手なものが多いことがどれだけショックなのだろうか。
この子供たちに美味しいを届けることは、きっと母親に幸せを届けることになる。
頑張れ、私!
「むう。苦いもん、駄目」
「僕も、もう要らない!」
子供に『その場アジメイ』を使うわけにもいかず。
後日、母親と一緒に調味料を考えることにした。
思ったよりも苦戦しそうだ。
会社に戻って、詩織主任に相談することにした。
「マルマメ、苦戦してる?」
「はい。母親と子供の感じ方の差をどう埋めればいいのかなって」
「子供は味蕾の影響で苦味に敏感だから。すべて同じ調味料にしたいなら思い切って甘くするのがいい。それと、単なる数値化した調味料でなくて、何をイメージしているかを考えるといいかもな。ドレッシング食べ比べてみるだけでも案が浮かぶかも」
「分かりました。私、今からドレッシング買い漁ります。今日からサラダしか食べません!」
「くそ真面目」
詩織主任が笑う。
美味しいのために、私は頑張りたいのだ。
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