8話 (三人称)丸岡豆代

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8話 (三人称)丸岡豆代

 雨宮家は減塩で美味しい料理屋を経営したが、株式会社アジメイが代替塩、代替醤油、代替ソースを開発して販売したことにより店はもたなくなった。夫は酒に溺れ、妻のブログで生きていくことになった。  美味しいと健康と幸せを届けたい、同じ意志を持っていたはずだった。  だが、同じ意志ゆえに夫婦の夢は潰れ、復讐に走ってしまった。  これをきっかけに株式会社アジメイでは、家に訪問すること、お客様から飲食物を受け取ることを禁止した。  店舗展開を行って、店内で『その場アジメイ』を使いながらお客様の対応をする方針に切り替えたのだ。  そして、雨宮家の妻は逮捕、丸岡豆代は契約した調味料の量に違和感を持った開発部が営業部に連絡、詩織主任らが駆け付けたことで奇跡的に助かった。  が、料理屋で食事をすることもできず、スーパーで総菜や弁当も買うことができず、母の手料理しか食べない。丸岡豆代は休職、復帰するかは本人の判断となった。 「美味しいを届けて、幸せを届けて、それが良いって思ってた。馬鹿だ、私」  豆代は家で布団に入っていた。  少し痩せてしまっている。  時代は変わっていく、技術は進化していく。  雨戸をすべて閉めて真っ暗な寝室は朝か夜かも分からない。  豆代は何も見えない闇の中で天を見上げる。 「幸せを届けるってすごく難しいな」  手を伸ばしてみる。  気のせいだろうか?   まだ少しだけ痺れが残っている気がした。
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