安楽城らら

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薄暗い廃墟の中を歩きながら思う。 さっきまで死のうと思っていたのに、こうやってまだ生きていて。 今は黒助のことで頭がいっぱいで、なんだか情けなくて。泣きそうだった。 黒助は本当に死んでしまったのかと、あのふわふわの柔らかい毛並みを思い出し、鼻の奥がツンと痛くなってどうしようもない。泣きたい。 ても、ここで泣いてもどうしようもない。黒助が自殺を止めに来てくれたと言っていた。ならば私の心の拠り所はそれだけだ。 そう思い、涙をこらえてキッと前を向く。 仄暗い廃ビルの中をスタスタと歩く青蓮寺さんに、置いて行かれないように着いて行く。 廃ビルは女の私でも屋上に上がって来れるほどの具合で、重装備じゃなくてもギリギリ歩けるものだった。 それでも床には色んな物が散乱していて、歩きにくい。 私もここを通って来たけど、その時は死ぬ事で頭がいっぱいで。廃墟の中のことなんか気にも止めなかった。 ただ、闇雲に上を目指していた。 今こうして少し冷静になって、ビルの中を歩くと。 剥き出しのコンクリートにフロアの案内板があって、部屋の番号が廊下に張り出されていたのに気が付いた。 内装はほぼ既に剥がれ落ちていて。長い廊下に壊れたドアが目立ち、代わり映えしない光景。 ここはどうやら、ホテルの営業を進めていたのに。何らかの理由で、工事が中途半端になってしまった建物かと思われた。 薄暗いと言うこともあり、方向感覚が狂いそうなのに。青蓮寺さんは知ってたる我が家のように、こちらを一切振り向きもせず前方を歩き続けた。 何回か階段を下って、空気感が変わったころ。前を歩く青蓮寺さんがふと呟いた。 「そうそう。ららちゃん。さっき、言い忘れていたけど。これからは僕の家に住んで貰うから」 「!」 声を出してびっくりそうになったけど、何とか驚きを飲み込み「はい」と、返事をしたのだった。
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