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そこからはまるでスローモーション。
私が渾身の力を振り絞り。びゅうっと、警棒が空気を切り裂く。
その次に箪笥に警棒が当たり、バギッと鈍い音がした。
途端に手首や両手に鈍い衝撃がくるけど、気にせずにそのまま手が壊れてもいいと指先から迫る衝撃を打ち殺すように、さらに力を込める。
箪笥に警棒をめり込ませ続ける。
後ろで何か叫ぶ男の声がうるさい。
静かにしてほしい。
ミシミシと音を立てているのは私の骨か、それとも箪笥か。
あぁ。
手がとっても痛い。
──でも、犬達はもっと痛かったよね。苦しかったよね。私よりもっと辛い人が居たんだよね。全部終わらせよう。それで終わっても──
「私が、私が全部覚えているから。誰よりも私は、あなた達の痛みが分かるからっ」
言葉にした瞬間。
ばきりと、警棒が接触していた箪笥の上部に僅かな亀裂が入った。
「!」
つかさず警棒から手を離し。
インナーから札を取り出す。
間近で見た札は、その表面にびっしりと曼荼羅のように繊細な赤い文字が綴られていた。
後ろで犬養がまた喚いているみたいだが、知ったことか。
「これで──終わりっ!」
気にせずに、ばしりと亀裂が入った箇所に札を思いっきり貼り付ける!
箪笥は途端にミシミシと軋んだ音を奏で始めた。
その不協和音も瞬きの間に終わり。ぎしぃと悲鳴を一つ上げてから。
ばがんっ!
と大きな音を響かせ、見えない稲妻が箪笥に落下したかのように。
目の前で札を貼った亀裂から、箪笥が左右。真っ二つに裂けたのだった。
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