安楽城らら

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その胸元には仏教絵画とかで見るような、梵字や蓮の花が緻密に掘られていた。 まじまじと見入ってしまいそうになるほどに繊細な模様だったが、男の人と言えども肌を見つめるもんじゃないと思って。 ぱっと視線を逸らした。 でも、割とイイ体をしているなとか思ってしまった。 「僕の刺青は趣味を兼ねた、お守りやねんけどね。ららちゃんには小さいヤツを入れて貰いたい、かな。痛みもそんなにないから。大丈夫。意味合い的には視覚的に、ららちゃんは誰のものなか分からせる『呪い』やな」 さっと、器用な手付きで着物の衿を直す青蓮寺さん。 「なんだか、段々と青蓮寺さんの呪いに染め上げられて行く感じですね」 「そやな。あってる。刺青やタトゥーは元より、色んな呪いの側面も含まれているかな。ららちゃんのその感じからして、薄々分かっているとは思うけど。あくまで僕は魂が欲しいからであって。優しさや、ましてや下心で接している訳じゃない。もし何か。僕の許容範囲外のことがあれば──」 青蓮寺さんはラムネ瓶を持ち上げて、からんと意味ありげにビー玉を揺らした。 「そんな心配しなくて結構です。魂は差し上げます。私に出来る範囲のことは従います。でも、絶対に黒助を殺したヤツを呪って下さい。私の望みはそれだけです。他には何も入りません」 逆にそれが達成出来なかったら、青蓮寺さんを呪ってやる。 そんな思いを込めて青蓮寺さんを見つめると、青蓮寺さんはふっと微笑して。 「その言葉違えんようにな。いやぁ、それにしても、妙齢のご婦人に『従います』なんて言われるなんて、オモロいなぁ」 ふふっと笑って、残りのラムネを飲み干す青蓮寺さん。 それに対して私はあんまりおもしろくないです、とは言えずに。私も残りのラムネを口にした。しゅわしゅわと弾ける爽快感がほんの少し。 喉にちくりとしたのだった。
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