安楽城らら

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後ろを振り向くと、すらっとした黒の着物姿の男性がいた。 年は私と同じぐらい。髪は青く長く、ポニーテールをしていた。耳はピアスだらけ。 存在感抜群の漫画から出て来たかのような男性が、編み上げブーツをカツカツと響かせながら、こちらにやって来た。 近くで見ると、その男性はややキツネ顔の整った顔立ちの切長の瞳で。 鼻筋もよく、唇は薄い。 細面の優男。と言う言葉が、ピッタリだと思った。 その突然の闖入者に、唖然として。動けないでいると、男の人は気怠げに、金網越しに私に喋り掛けてきた。 「ねぇちゃん。死ぬところ邪魔して悪かった。えっーと、すぐに事情を説明する。それを聞いて貰ってから。死にたかったらその後で、死んでくれへんかな?」 「えっ、いや」 意味が分からない。 何なんだこの人。よく見たら手首や鎖骨にタトゥーがチラリと顔を覗かせていた。 この辺でたむろしているヤンキーかヤクザと思ったけど、ソッチのヒトだとしても何だか異質過ぎる。 良く分からないまま、青髪の男性は喋り続けようとしたので体の重心を金網に傾けて、一応聞く体制を取ってしまった。 「僕は青蓮寺(せいれんじ)(かすが)。見ての通り呪術師や。この廃ビル近くで、依頼があった藁人形を木に打ち付けて、仕事をしてたんや」 「……そ、そうなんですね」 見ての通りの呪術師──なんて。 誰が一目みて『この人は呪術師だ!』なんて、看破出来ると言うのだろうか。 そんな派手で、独特なスタイルは職業不明過ぎた。 あまりにも突飛過ぎて言葉が見つからない。 むしろ。この状況が把握出来なくて、なんたが普通に返事してしまった。 「仕事に励んでいたら、黒い犬コロが助けに行けって、キャンキャン喚くから来た」 「黒い、犬?」 「ん。心当たりないんか?」 「く、黒い犬ってまさか、芝犬の」 「あーそうそう。黒い芝犬やった。それがここに来いって、うるさくてな」 待ってと、金網にがしゃんと体を寄せる。
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